人生100年時代のリーダーは多様に
御立:1985年、当時アップルの会長であり、中核事業であるマッキントッシュ部門を束ねていたジョブズは、社長だったジョン・スカリーと対立しました。役員のほとんどがスカリーを支持し、ジョブズは肩書きばかりの会長職だけ残し、すべての業務から外されてしまいました。
土屋:事実上の解任でしたね。
御立:その後、NeXTという会社を立ち上げコンピュータ開発を進めたり、ルーカスフィルムのCGアニメ部門を買収してピクサーを設立したりしましたが、1996年、非常勤顧問としてアップルに復帰を果たし、徐々に経営の実権を掌中に収めていきました。
土屋:ジョブズがアップルから離れていた10年強の間に、パソコンの世界はマイクロソフトが席巻してしまいました。アップルの業績は低迷していたと言えます。
御立:ジョブズが本物のリーダーになったのはアップル復帰以降だと思います。倒産寸前だったアップルに復帰すると、コンピュータとOSというコア事業だけ残し、それ以外の事業部と製品群を切り捨てました。
大半の事業を切り捨てたことが、1998年に発売されたiMacの成功に結びつき、その後の長期的成長につながりました。
土屋さんもジャングルファイターで培ってきたことや、ワークマンに入社した2年間、「しない経営」を学んだからこそ、いま素晴らしいリーダーシップを発揮されているように私は思います。
土屋:遅咲きですね。
御立:遅咲きのリーダーの話は調べるといっぱいあります。
リーダーとしての才能が20代に開花する人もいれば、70代で開花する人もいるかもしれない。「人生100年時代」で、どのようなプロセスでリーダーになるか、いつリーダーとしての才覚が開花するかも多様になると思います。
次回以降もこの連載では、土屋さんのリーダー像に迫っていきたいと思います。
土屋:こちらこそよろしくお願いします。
御立尚資(みたち・たかし)
ボストン コンサルティング グループ シニア・アドバイザー
京都大学文学部米文学科卒。ハーバード大学より経営学修士(MBA with High Distinction, Baker Scholar)を取得。日本航空株式会社を経て、1993年BCG入社。2005年から2015年まで日本代表、2006年から2013年までBCGグローバル経営会議メンバーを務める。BCGでの現職の他、楽天株式会社、DMG森精機株式会社、東京海上ホールディングス株式会社、ユニ・チャーム株式会社などでの社外取締役、ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン専務理事、大原美術館理事、京都大学経営管理大学院にて特別教授なども務めている。経済同友会副代表幹事(2013-2016)。著書に、『戦略「脳」を鍛える~BCG流戦略発想の技術』(東洋経済新報社)、『経営思考の「補助線」』『変化の時代、変わる力』(以上、日本経済新聞出版社)、『ビジネスゲームセオリー:経営戦略をゲーム理論で考える』(共著、日本評論社)、『ジオエコノミクスの世紀 Gゼロ後の日本が生き残る道』(共著、日本経済新聞出版社)、『「ミライの兆し」の見つけ方』(日経BP)などがある。
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。