画廊、企業・メディア、消費者、作家、美術館――。一見、美しい世界のように思えるアート界では、一皮むけば札束が飛び交い、風変わりなプレーヤーがうごめいている。裏の顔を知れば、「表」ももっと楽しめるはず。特集『アートの裏側「美術とお金」全解剖』(全10回)の#1では、アートの裏側をのぞいてみよう。
一皮むけば美しくない!?
金と個性が交差する美術界
2017年2月から、草間彌生氏の美術展「草間彌生 わが永遠の魂」が東京の国立新美術館で開催された。過去の代表作に新作が加わり、270点が紹介される過去最大級のものだ。
その内覧会のあいさつで草間氏は「わが最愛の作品群を私の命の尽きた後も人々が永遠に私の芸術を見ていただき、私の心を受け継いでいってほしい」と語った。
その思いを実現するかのように、展覧会の裏側ではある一つのプロジェクトが着々と進んでいた。
手元に1枚の登記簿がある。そこには17年1月に草間彌生記念芸術財団が設立されたと記載されている。設立の目的に「美術館の運営」ともある。実は、東京にある草間氏のアトリエの隣接地に、美術館がオープンする予定なのだ。
なぜ、財団設立と美術館オープンを進めるのだろうか。当然、多くの人に作品を見てもらいたいという思いもあるだろう。しかし、作品をアート市場とマネーゲームの餌食にさせないという狙いもありそうだ。日本で財団を設立すると税制上のメリットが受けられる上に、作家の死後に作品が市場に散逸することを防ぐことができる。世界的に名をはせた作家ですら、カネの悩みとは無縁でいられないのだ。
ガラガラの常設展に何時間も待つ大型展
作家は生活苦に悩む
日本人の美を愛する気持ちは非常に強い。
何しろ、東京でのアートのイベントを紹介するサイト「東京アートビート」には、1500カ所が紹介されている。米ニューヨークでの同種のサイトでは1200カ所というから、いかに東京に集積しているかが分かる。さらに、地方にも美術館がごまんとある。
ところが今、美術界で断絶が起こっている。ある意味では二極化といってもいいかもしれない。