アートの裏側「美術とお金」全解剖#5
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美術を楽しむためにも教養として身に付けるためにも、過去に積み上げられた伝統を知ることは第一歩。というわけで、特集『アートの裏側「美術とお金」全解剖』(全10回)の#5では、西洋美術の「表現手法の進化」を解説する。古代ギリシャ美術から20世紀美術まで、2000年以上にわたる西洋美術史は、欧州の歴史と照らし合わせながら理解していこう。そうすれば、「あの名画」が誕生した理由も見えてくる。(取材協力/美術ジャーナリスト 藤原えりみ)

「週刊ダイヤモンド」2017年4月1日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は原則、雑誌掲載時のもの。

美術の歴史から鑑賞術まで
西洋美術の表現手法の進化を追う

「美術館へ行くと、みんなありがたがって西洋の絵を見てるけど、何がいいの?」。“美術アレルギー”の人からはそんな声が聞こえてきそうだ。西洋美術は宗教美術が多いし、多くの場合、キリスト教は身近な存在ではないから無理もない。

 でも、中世の絵画が、文字を読めない庶民にキリスト教を伝えるためのメディア(今ならテレビなど)だったと知れば、少しは興味が湧いてこないだろうか。西洋社会の歩みを知れば、西洋美術史に登場する名画のすごさも見えてくるのではないかと思うのだ。

 まず、西洋文化を構成する二つの大きな原理といえば、古代ギリシャ・ローマ文明とキリスト教だ。

 古代ギリシャは肉体美を褒めたたえ、彫刻を通して理想的な身体プロポーションを追求した。そして、数多くのヌード像が制作される。その代表的な作例の一つが「サモトラケのニケ」。生き生きした肉体は、今にも動きだしそうだ。

 キリスト教美術は、ヌードはタブーで、精神を重視。この世界は仮のもので、永遠の命は神の国にだけあると考えたのだ。神の国の美や善を賛美するため、平面的な画像を重んじた。イコン画の「ウラジーミルの生神女」は、肉感的でないが故、憂いに満ちたマリアや峻厳な表情のイエス・キリストなど、精神面が強調され伝わる。

 また、冒頭で触れた通り、中世の時代、聖堂内の絵画は、文字が読めない人にキリスト教の教義をやさしく伝える「聖書の挿絵」のようなものだった。