教育学、心理学、脳科学等、さまざまな切り口の資料や取材をものに「いま、もっとも子どものためになる」ことをまとめ、16万部を突破した話題の書『子育てベスト100──「最先端の新常識×子どもに一番大事なこと」が1冊で全部丸わかり』。
発売早々、高濱正伸氏(花まる学習会代表)が「画期的な1冊が誕生した。長年の取材で得た情報を、親としての『これは使えるな』という実感でふるいにかけ、学術研究の裏付けやデータなども確認した上でまとめあげた力作である」と評するなど話題騒然の1冊だ。
今回、『子育てベスト100』著者の加藤紀子氏が、『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』』著者の借金玉氏に、子育てについて話を聞いた。発達障害の子を持つ親たちはもちろん、「子どもとの向き合い方」に悩んでいるすべての親にとって、絶対に知っておきたい「子育てのヒント」が満載です(構成:イイダテツヤ、写真:柳原美咲)。
※対談前回「発達障害の僕が教える『子どもが学校に行けなくなる』2つの理由」はコチラ
【1つのこと】「長期で帳尻を合わせよう」と考えてください
借金玉 僕は子育てをしたことがないんですけど、親御さんにとって「周囲との差」ってすごい気になると思うんです。自分の子どもの発達段階が明らかに遅れていると、やっぱり焦ると思うんですよね。
加藤「なんでウチの子だけできないの」っていう気持ちにどうしてもなっちゃいますね。
1973年京都市出まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、国際バカロレア、教育分野を中心に「NewsPicks」「プレジデントFamily」「ReseMom(リセマム)」「ダイヤモンド・オンライン」などさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。一男一女の母。膨大な資料と取材から「いま一番子どものためになること」をまとめた『子育てベスト100──「最先端の新常識×子どもに一番大事なこと」が1冊で全部丸わかり』が16万部を超える大きな話題となっている。
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』。
借金玉 でも、僕は「長期で帳尻が合えばいい」という発想がすごく大事だと思うんです。僕自身の経験でも、そういう視点で接してほしかったという部分はけっこうありますから。
いまの子たちも同じだと思うんですが、僕は子どものころ「長期で何を目指せばいいのか」がまったくわかりませんでした。「今日、学校へ行く」とか、「中学を出る」「高校を出る」という短期のことしかなくて、長期の視座がまったくなかったんです。
でも本当は、小学校くらいからロングスパンで「長期的に何ができるようになればいいのか」っていう視点はすごくは大事だと思うんです。
最近、僕らの間で「四十代に期待だね」っていうのが合言葉になっているんです。「三十代がダメだったら、四十代に期待だね」っていう感じです。
加藤 へぇ〜、おもしろいですね。
借金玉 僕らでもそうなんですから、子どもたちなんてもっとそうで、小学2年生でダメだったら、3年生に期待すればいいし、5年生でダメだったら6年生で期待すればいい。長期では大いに期待するけど、短期ではあまり期待しない。それってとても大事だと思いますね。
加藤 すごくわかります。以前、ある私立中学の校長先生に聞いたんですけど「そもそも学年という枠組みに無理があるんじゃないか」って、その先生は言っていました。
6年間で中学・高校を卒業するわけですが、中学・高校でやる内容の理解は6年間でできる子もいれば、8年かかる子もいるし、4年ですむ子もいるって。
最近は、個別にカリキュラムを最適化するなど実験的なことをやっている学校も増えてきましたが、まだ受験競争もあるし、むずかしい点がたくさん残っているんですよね。
10回聞いたら、本音が見えてくる
加藤 発達障害気味の子どもとのコミュニケーションのコツについて、教えてください。
たとえば、子どもが学校に行けないとなって、その本当の理由を聞いてみたいときに、コミュニケーションの取り方として、大人の側が意識した方がいいことってありますか?
借金玉 一問一答で判断しないで「いっぱい聞いて、そのなかからぼんやりつかんでいく」ことかなと思っています。
加藤 いろんな話を、何回も聞いていくなかで「これがほんとっぽいな」みたいな感じですか。
借金玉 ホントそれです。子どもなので、一回聞いても「答えられないこと」や「答えたくないこと」はありますし、一度言ったことでも、次に聞いたら全然違うことを言ったりしますよね。僕が塾をやっているときも、毎回言っていることが違う子なんていくらでもいました。
でも、10回聞いて、その話を総合して、違いを比べたりしていくと「だいたい、そういうことなんだろうな」ということがわかってくるんです。毎回言うことが違う子でも、何回も聞いていると、核になるような話が出てきますから。
加藤「いっぱい聞いて、そのなかからぼんやりつかんでいく」ってすごくいいですね。発達障害の子はもちろんですけど、子育て全般で役に立つコミュニケーション法だと思います。
借金玉 それと、「誘導」しないのも大切ですね。子どもはすぐに「求められている答え」を言いますから。
たとえば、以前からいじめられている子がいる場合、最近はそうでもないかなと感じられるようになったころに、「最近はどう? もう、いじめられてないよね?」と聞いたら、まず「いじめられてない」って答えます。
加藤 それはすごくありますね。最近は「子ども向けコーチング」の本もたくさん出ていて「子どもの話を聞いてあげる」ということ自体はすごくいいんですけど、「子どもにこれを気づかせたい」「こう言わせたい」というゴールを親が設定してしまっているケースもけっこうあると聞きます。子どもはそれを敏感に感じとりますよね。
借金玉 子どもって思った以上に賢くて、思った以上に愚かというか。大人が望んだことを言うのが妙にうまい子っていますね。
加藤 やっぱりそこは親とか、大人が注意しておかなければいけないポイントですよね。