「人治」マネジメントの肝は、人を育てること
一方、日本企業を振り返ってみると、まず前提として、良くも悪くも、個人株主、機関投資家を含め主要な株主から、そこまでの高い資本収益性や成長性を求められることはありません。
結果として、創業者などのワンマントップが健在な場合を別にすると、規模が大きく歴史のある企業のほとんどは、高度成長期以来のやり方を踏襲し、現社長や会長が選び、その会社の大株主、場合によっては旧経営陣などの長老たちが認める、社内からの生え抜き人材が次の社長の座に就きます。
ここで問題となるのは、社内から選ばれる人材の多くは、どんなに優秀でも「和を以(もっ)て貴(とうと)し」を重要視し、まずは従来のやり方を踏襲する路線を走る傾向が強くなってしまう点です。
さらに、トップの座は、2期4年の持ち回りが慣例化していると、中長期的な視座での抜本的な戦略的な判断には必ず躊躇が起きます。
富士フイルムの古森会長のように、当時主力だったフィルム事業からの流れを変えなければ先はないとの強い意志を持ち、大胆な行動に移して成功したケースはまれです。
これは、いい意味でこの突然変異のような方が役員だったことに加え、変革の意志を抱く周りの方々の賛同を得られたこと、行動に移すためのいくつかの条件が揃ったこと、そしてもともと前向きな挑戦へのDNAを社内に文化として持つ富士フイルムだからこそ起こりえた特殊なケースと言えます。
一般的には社内から選ばれた社長の多くは、各役員にリスペクトを払い、同意を形成して意思決定をしようとします。そもそも経営会議や取締役会の意見を抑えて、「俺はこうやりたい。だからこれで決まりだ」などとやれるのは、日本では創業者か、創業家からのオーナー、あるいは何らかの理由でオーナー家の強い後ろ盾が得られるワンマントップくらいのものです。
2代目以降がワンマントップが描くような「強いリーダーシップ」と言える采配を振って企業を成功に導くことなどは、ただの夢想と考えておいたほうがいいでしょう。
この本でも述べていきますが、2代目以降はリーダーシップの形が必ず変わります。
創業者の次の代が、組織を動かす次世代のマネジメントの構築に取り組もうとすると、創業者が自身のやり方とはあまりに違うためについしゃしゃり出てきてしまい、結果、二頭政治状態が起きて、組織運営に混乱を来すことも多いものです。
中には一見、創業者のようなワンマンにふるまう次世代トップもいますが、残念ながらクローンをつくりあげるような育ち方をしてきていないために、創業者には一見よくやっているように映っても、実は形だけ、中身のないワンマンということも多いものです。
その場合は早晩、業績は横ばい、低迷状態に陥り、組織が徐々に破綻していきます。この「人治」マネジメントの肝は、健全に考え、先に起きうることを読み、判断できる人を育てることに尽きます。
それにはトップを含めた上長が、組織の直属の部下に考えさせてやらせ、総括をしっかりと行わせるPDCAが、組織で行われていることが大切になります。
《Point》
「人治」の基本は、人を育て上げること。それもトップのコピーづくりではなく、実務の難題への取り組みを通して頭の中の思考回路を作り上げる「クローンづくり」。