鬼ヶ島から財宝を持ち帰った桃太郎を待っていたのは、毎年の確定申告でした。果たしてこの財宝はどう申告したらいいのか、鬼退治に使った「きびだんご」は経費として認められるのか――。
そんな疑問にこたえる新著『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』では、知らないと損をする、でも説明されてもわかりにくい。そんな税金の世界を、誰もが知ってる昔ばなしでシミュレーション。ストーリー仕立てで楽しみながら、税金の知識が身につくと早速評判になっています。
こちらの連載では、本文の中からご紹介してきます。今回は、「わらしべ長者」の1回目になります。(イラスト・佐々木一澄)

「鶴の恩返し」の1回目はこちらになります。

「桃太郎」の1回目はこちらになります。

わらしべ長者の物々交換には税金がかかるの?

【あらすじ】
昔々あるところに、何をやってもうまくいかない貧しい男がいました。
ある日、観音様に願掛けをすると
「お堂を出て初めて手にした物を大切にして西へ行け」
とお告げをもらいます。
お堂を出たところで転んでしまった男が手にしたのは、
一本のわらしべ。ところが、アブをくくりつけたわらしべを
子どもがほしがり、母親からミカンをもらいます。
その後も物々交換は続き、最終的に男は長者の屋敷を
手に入れたのでした。

高橋税理士(以下「高橋」) ねぇ小沢くん、この前整理してくれた書類なんだけど。

アシスタント小沢くん(以下「小沢」) ……僕が出品したコートについて……値下げしてほしいとのことですが……2万円のコートは100円にはなりません……。

高橋 小沢くーん。あれ、なに見てるの。ちょっと。小沢くーん!

小沢 なんですか、大きな声だして。

高橋 いやいや、スマホに夢中で全然気がついてくれないんだもの。なんか値下げがどうとか言って。

小沢 え!先生、なんで僕がフリマアプリで値下げ交渉と戦っていたのを知ってるんですか!?

高橋 あのね……。前々から言おうと思ってたんだけど、君はPCでもスマホでも文字を打つとき全部声に出ちゃうんだよ。

小沢 アハハ、そんな人います?

高橋 昨日も誰かに「だるい」って打ってたし、それから……。

小沢 あ、お客さんですね。

高橋 それでさ、この前整理してくれた書類なんだけど……。

?? 御免! こちらかな? 高橋税理士事務所というのは。

小沢 はい、そうです! さぁさぁ、どうぞこちらにお座りください。

高橋 着物姿で言葉づかいが古い……これはアレだな……。

小沢 今日はどういったご用件で?

?? 先日よりこちらに、我々の世界から税の相談に来ている者がいると知ってな。ぜひご意見を賜りたく伺った次第だ。

小沢 先生、これはアレです。

高橋 わかってるわかってる……。あのぉ、我々の世界というのは、鶴が恩返ししたり桃が流れてきたりするタイプの世界でいらっしゃる……?

?? 左様。私はそこで代官として税務を担当しておる。

小沢 あ!『鶴の恩返し』の人が言ってた、あの代官さん!?

代官 いかにも。あやつは最初、私を悪代官呼ばわりして大変だった。

小沢 金に目がくらんだポンコツ代官だって言ってましたよ。

高橋 そこまで言ってなかったよ。

代官 ところがしばらくして、しっかり経費を計算した申告をしたうえに、お詫びまでされてな。こちらで詳しいことを聞いて考えが変わったと言っておった。感謝する。

小沢 あれからちゃんと申告したんだ。よかったですね。

高橋 うん。で、今回代官さんが意見を聞きたいというのは?

代官 私の管轄で「わらしべ長者」と呼ばれている男のことなんだが……。先生、物々交換は税金がかかるのだろうか? それとも、税金はかからないのだろうか?

「わらしべ1本からここまで来たんですよ?」

小沢 『わらしべ長者』って、物と物を交換し続けてお金持ちになる話ですよね。

高橋 そうそう。でも何と何を交換したんだっけな。

小沢 わらしべ長者……交換……何……。

高橋 検索ワードを全部言っちゃってるね。

小沢 えーっと、最初がアブをくくりつけた“わらしべ”で、それを通りがかった親子にねだられて、ミカン3個と交換してますね。

代官 そうだ。次に喉が渇いた女性にミカンを渡し、代わりに反物をもらう。そのあと反物と馬を交換し、最終的に馬と屋敷を交換する。

高橋 思っていたより、屋敷にたどり着くのが早いんだなぁ。交換が4ターンしかない。

小沢 馬……屋敷……交換……なぜ……。

高橋 そうだね、なんで馬と屋敷なんか交換できたんだろうね。

代官 過程はともあれ、財産を手に入れたのだから課税対象であろう。だが、まったく話が噛み合わないので、ほとほと困っておってな……。

(ここから回想)

代官 ずいぶん立派な屋敷に住んでいるじゃないか。

わらしべ長者 はは、恐縮です。

代官 こんな屋敷を、一銭も払わず手に入れたわけだろう?

わらしべ長者 失礼な。僕はね、代官さま。わらしべ1本でここまで来たんです。人は僕のことを「わらしべ長者」と呼び、楽して儲けたと思っているみたいですが、心外ですよ。

代官 事実、働いていないのだから当然だろう。

わらしべ長者 冷静になって考えてみてください。馬と屋敷、普通この2つを交換しようと思いますか? しかも顔なじみではなく、たまたま道で出会った人とです。この取引を成立させるには、高度なコミュニケーション能力と交渉スキルが必要不可欠なんですよ。

代官 コミュ……なんて言った?

わらしべ長者 優秀な営業マンはエスキモーに氷を売ることができるといいますよね。普通に考えれば、エスキモーにとって氷はその辺にいくらでもある、価値のないもの。そこに、高度な交渉を仕掛けることで、氷の価値を何倍にも膨らませ、対等なディール(取引)を成立させるわけです。価値が釣り合わない馬と屋敷の交換も、同様の命題だといえるでしょう。

代官 さっきから何を言っているのかさっぱりわからないが……。

わらしべ長者 要するに、一見不可能な取引を成立させるには、それなりの経験と能力が必要であり、その能力を手に入れるまでの過程があるのです。それを「楽して儲けた」と思われるのは心外だと言っているんです。

代官 わかったわかった。何かしら苦労があったということだな。それはともかく、今日ここに来たのは他でもない。税金を納めてもらわねばと思ってな。

わらしべ長者 は? 税金? なぜ私が?

代官 現にこうして屋敷という資産を得たのだから、所得とみなすのが筋であろう。しかるべき所得税を申告してもらわねばなるまい。

わらしべ長者 所得とはすなわち、労働の対価であり、資産が生み出す利益のことでしょう? 確かに今この屋敷は私のものですが、それまでは物と物とを交換しただけですよ?

代官 しかし、こうして立派な屋敷を手に入れている以上……。

わらしべ長者 先ほども申しましたが、物々交換は相手に「これとこれは同じ価値を持つ」と認めてもらわねば成立しません。同じ価値なのだから、そこに損得はないでしょう? わらしべとミカンは同じ価値、ミカンと反物は同じ価値であるわけです。

代官 はぁ…………。

わらしべ長者 わらしべ=ミカン、ミカン=反物であれば、わらしべ=反物となるのは自明の理。その後、反物=馬、馬=屋敷と続くのですから、最終的に「わらしべ=屋敷」となりますよね。

代官 ん……ん……?

わらしべ長者 お代官さまは、その辺に落ちているわらしべを拾った者に、「税金を払え!」と迫るんですか? まさか、そんな横暴を働く方ではありますまい。税の徴収を司る者として、良識ある対応を期待しますよ。ハッハッハ……。

(回想おわり)