鬼ヶ島から財宝を持ち帰った桃太郎を待っていたのは、毎年の確定申告でした。果たしてこの財宝はどう申告したらいいのか、鬼退治に使った「きびだんご」は経費として認められるのか――。
そんな疑問にこたえる新著『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』では、知らないと損をする、でも説明されてもわかりにくい。そんな税金の世界を、誰もが知ってる昔ばなしでシミュレーション。ストーリー仕立てで楽しみながら、税金の知識が身につくと早速評判になっています。
こちらの連載では、本文の中からご紹介してきます。今回は、「わらしべ長者」の2回目になります。(イラスト・佐々木一澄)

「わらしべ長者」の1回目はこちらになります。

わらしべ長者の物々交換には税金がかかるの?

(ここから回想)

代官 ずいぶん立派な屋敷に住んでいるじゃないか。

わらしべ長者 はは、恐縮です。

代官 こんな屋敷を、一銭も払わず手に入れたわけだろう?

わらしべ長者 失礼な。僕はね、代官さま。わらしべ1本でここまで来たんです。人は僕のことを「わらしべ長者」と呼び、楽して儲けたと思っているみたいですが、心外ですよ。

代官 事実、働いていないのだから当然だろう。

わらしべ長者 冷静になって考えてみてください。馬と屋敷、普通この2つを交換しようと思いますか? しかも顔なじみではなく、たまたま道で出会った人とです。この取引を成立させるには、高度なコミュニケーション能力と交渉スキルが必要不可欠なんですよ。

代官 コミュ……なんて言った?

わらしべ長者 優秀な営業マンはエスキモーに氷を売ることができるといいますよね。普通に考えれば、エスキモーにとって氷はその辺にいくらでもある、価値のないもの。そこに、高度な交渉を仕掛けることで、氷の価値を何倍にも膨らませ、対等なディール(取引)を成立させるわけです。価値が釣り合わない馬と屋敷の交換も、同様の命題だといえるでしょう。

代官 さっきから何を言っているのかさっぱりわからないが……。

わらしべ長者 要するに、一見不可能な取引を成立させるには、それなりの経験と能力が必要であり、その能力を手に入れるまでの過程があるのです。それを「楽して儲けた」と思われるのは心外だと言っているんです。

代官 わかったわかった。何かしら苦労があったということだな。それはともかく、今日ここに来たのは他でもない。税金を納めてもらわねばと思ってな。

わらしべ長者 は? 税金? なぜ私が?

代官 現にこうして屋敷という資産を得たのだから、所得とみなすのが筋であろう。しかるべき所得税を申告してもらわねばなるまい。

わらしべ長者 所得とはすなわち、労働の対価であり、資産が生み出す利益のことでしょう? 確かに今この屋敷は私のものですが、それまでは物と物とを交換しただけですよ?

代官 しかし、こうして立派な屋敷を手に入れている以上……。

わらしべ長者 先ほども申しましたが、物々交換は相手に「これとこれは同じ価値を持つ」と認めてもらわねば成立しません。同じ価値なのだから、そこに損得はないでしょう? わらしべとミカンは同じ価値、ミカンと反物は同じ価値であるわけです。

代官 はぁ…………。

わらしべ長者 わらしべ=ミカン、ミカン=反物であれば、わらしべ=反物となるのは自明の理。その後、反物=馬、馬=屋敷と続くのですから、最終的に「わらしべ=屋敷」となりますよね。

代官 ん……ん……?

わらしべ長者 お代官さまは、その辺に落ちているわらしべを拾った者に、「税金を払え!」と迫るんですか? まさか、そんな横暴を働く方ではありますまい。税の徴収を司る者として、良識ある対応を期待しますよ。ハッハッハ……。

(回想おわり)

アシスタント小沢くん(以下「小沢」) いけ好かない野郎ですね。

高橋税理士(以下「高橋」) 営業マンとエスキモーの例えなんて、どこで知ったんだろう。

代官 どうやら、わらしべ長者も新宿にちょくちょく来ているようでな……。さっきも紀伊國屋書店で立ち読みをしておった。

小沢 わらしべ長者って案外意識が高かったんですね。

高橋 ただのラッキーボーイだと思ってたよ。

小沢 でも確かに、わらしべのやつは商売で儲けたわけじゃないし、双方納得して交換が成立しているわけだし……。そもそもお金が出てこないから、税金って発想にならないかも。

代官 先生、これはどう考えたらいいのだろう。物々交換は本当に、税金が発生しないのだろうか?

高橋 わかりました。では、結論から申し上げます!

全員 ……。

高橋 結論! 税金がかかります!

全員 ……!

高橋 物々交換での儲けは「譲渡所得」であり、課税対象になるんです。

物々交換は「譲渡所得」とみなされる

代官 譲渡所得とは……?

高橋 はい。譲渡所得は、資産の譲渡による所得のことを指します。持っている物を人にあげて、代わりに金銭などの対価を得たら、それが譲渡所得です。あ、小沢くんがさっき出品していたフリマアプリ、あれも譲渡所得の対象だよ。自分のものを人にあげて、対価を得るでしょ?

小沢 え!せっかく着ない服を売って儲けたのに、税金取られちゃうんですか?

高橋 アハハ、そんなに焦らなくても大丈夫。譲渡所得は洋服や家具などの生活用品には課税されないんだ。貴金属や骨董品などで、1つ30万円を超えると課税対象になるけどね。

小沢 びっくりさせないでくださいよ。

代官 ちょっといいだろうか。先ほど「物をあげた代わりに金銭を得たら」と言っていたが、それは普通の商売と同じではないか? 物とお金の交換なわけだろう。

高橋 いい質問ですね。仮に、商品の販売を継続的に繰り返していたら、「もうそれって事業でしょ」ってことで事業所得になります。わらしべ長者さんは物々交換を事業にしているわけではないので、この場合は譲渡所得になるかと。

代官 なるほど。そして、物とお金の交換だけでなく、物と物を交換しても、譲渡所得の対象になるのだな?

高橋 その通りです。

小沢 でも、さっきわらしべのやつが言っていた「同じ価値」の話はどうなるんですか? わらしべとミカン、同じ価値のものを交換したんだから損得ないでしょ、っていう。

高橋 あぁそれね。小沢くん、スーパーにわらしべ1本とミカン3個が置いてあるとして、どっちも500円だったらどう思う?

小沢 このスーパー、バグってんじゃないの?って感じですね。

高橋 具体的にはどういうところが?

小沢 だって、わらしべ1本500円って高すぎませんか!? いくらなんでも1本10円くらいでは?

高橋 だよね。そりゃぁ交換した本人たちは「同じ価値」と思うかもしれないけど、税金の世界では『一般的な時価』で評価するんだ。ミカン3個500円、わらしべ1本10円が一般的な時価とすれば、物々交換でミカンを得たわらしべ長者さんは、490円儲けたことになる。

小沢 本人たちがどう思ってようが関係ないってことですか。

高橋 そりゃそうだよ。だいたい、わらしべと屋敷が同じ値段なわけないでしょ。

小沢 ですって。

代官 ……そ、そうだな。するとどうなるのだ? わらしべ長者は何度も交換を続けているんだ。どうやって譲渡所得を計算したらいい?

(次回へ続く)