小学生の娘に父が与えたMac

岸田:私の場合、なぜかいつも「妖精みたいなおじさん」が現れるんです。ちょっと浮世離れして、変わっているんだけれど、圧倒的な才能があって「お前はそれでいい」と言い切ってくれるおじさん。なぜか男性ばかりなんですが。

川原:糸井さんや佐渡島さんのことですね。

岸田:ほかにもいるんです。私はもともと注意散漫で、空気も読めなくて、誰もができる簡単なこともできない。診断は受けていないけれど、おそらく発達障害の傾向があるんだと思います。

 何かに熱中すると、ほかのことが見えなくなってしまうからダブルブッキングもしょっちゅう。今はマネジャーの武田さんがついてくださったから救われているんですけど、振り返れば、小学生の頃からダメでした。

 本に没頭して友達と遊ぶ約束を忘れたり、みんなが好きなドラマをお世辞で「好き」と言うことができなかったり。家の中では家族からすごく愛されて育ったから、学校でも中心になれると思っていたのに、全然そうなれなくて、そのギャップに悩んでいて……。いじめられたわけでもないのに、「認められない」という圧倒的な孤独。

 そんな私に、「お前の友達はこの箱の向こうにおる」とMacを買ってくれたのが父でした。思えば彼が一人目の妖精だったんです。パソコン普及率が7%くらいの時代に、小学生の娘にMacを買い与えた。しかも使い方は何も教えてくれない。だから私、いまだに変なタイピングの癖があるんです。

川原:いいお父さんだなぁ。

岸田:それで、インターネットをつなげてチャットを始めてみたら、本当にいたんです。箱の向こうに、私の話をおもしろいと言ってくれたり、笑ってくれたりする人たちが。

 当時は『電車男』がはやった頃で、ネットの向こうの顔も知らない誰かを応援する文化の最盛期でした。私にとっては温かい世界が広がっていたんです。

 相変わらず学校では浮いていたし、「ネットの友達なんて嘘の友達」なんて言われるのは分かっていたから、周りには黙って、家ではホームページを作ったり、チャットをしたりしていました。

川原:まさに受け入れられる場所を見つけた原体験ですね。

岸田:高校生になって父が死んで、母も病気になって、弟は生まれもっての知的障害で、もういっぱいいっぱいのピンチで大学進学も諦めようとしたときに、二人目の妖精おじさんが現れました。