初代プリウスで一番苦労したのは
やはりバッテリー

「初代プリウスの開発で一番苦労したのは、やはりバッテリーです。電池が10年以上も利用するクルマの耐久性に見合うか、バッテリーの使い方などで開発協力先のパナソニック側も全く未知の手探り領域でした。今でも電動車の行方は『電池のイノベーション』がキーになっています。

 当時のトヨタのトップが『赤字覚悟で市場に出す』と言ったのも、『社会に役立つ製品を世に出す』というトヨタの創業精神に基づくものでした。コスト的には厳しく、最初は利益がでなくても他で得た利益で還元すべきだと…。結局、HVが花を開いたのは、それから10年から15年たった2010年代ですから。

 今や、特に日本市場ではHVが主流になっていますが、HVが売れているのはお客さまの利便性に応えているからです。

 電動車の道筋は、世界各国における地域差や需要層の違い、インフラ環境と相談しながらということになります。

 EV大転換とか、『EV競争に勝つか、負けるか』という議論は、率直に言って古い20世紀の考え方です。21世紀となった今では、動力源の選択も社会と同じくダイバーシティ(多様性)なのです。中国もそのことに気づいてEVだけでなく、FCVの航続距離の特性から開発に乗り出しています。また、新エネルギー車政策に省エネルギー車のHVも含めてきたのです。

 つまり、全世界ですべてのモビリティをカバーするためには、BEVだけでは実現しません。そもそも各国・各地域・各ユーザーにとって、どこに利便性があるのかを考えていけば、電動化の道筋はまさに多様なのです」

今の大人が
やらなければならないこと

「私は、今の大人がやらなければならないこととして『気候変動の悪影響をどう食い止めるか』ということを考え続けています。

 世界各地で毎年のように災害が起き、その流れは後戻りできない状況になっています。私は一人の大人として、また企業人として気候変動が解決されることを願っています。これは大きなチャレンジだし、新たなイノベーションが求められる分野です。

 また、カーボンニュートラルを目指すには、省エネにも新たなイノベーションが求められると思っています。企業も個人も『エネルギーの使用量をどれだけ下げられるか』ということです。『省エネ』と言うと、どうもケチケチしているように聞こえますが、画期的な省エネが再生エネルギーにも結びつくことになるのです」

(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫)