『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』ではチームや企業の組織文化の変革方法についてまとめています。本書の中で組織文化を進化させる企業として紹介しているジョンソン・エンド・ジョンソン。本連載では玉井孝直社長への取材を3回に分けて紹介します。(構成/新田匡央)

ジョンソン・エンド・ジョンソンの玉井孝直社長(写真左)と中竹竜二さん(Photo/竹井俊晴)

中竹竜二さん(以下、中竹):組織文化をテーマに『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』をまとめました。この中で、企業の組織文化を言語化したり、目に見える形で把握したりするのは難しく、だからこそ組織文化の変革や、変革後の継続も難しいものだと考えています。

 強固な組織文化がありながら、常に組織文化の変革を継続している企業として、今日はジョンソン・エンド・ジョンソンの取り組みについて、玉井孝直社長にお話をうかがいたいと思います。

『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』にも収録しましたが、ジョンソン・エンド・ジョンソンの「我が信条(Our Credo、以下クレドー)」は、1943年に起草されて78年目を迎えます(クレドー全文はこちら)。

 その間、現在までに4回の変更が加えられてきたそうですね。老舗の会社で、創業者が社是をつくっても、そのままの形で見直すことなく、言葉が形骸化されてしまうケースが多いなかで、なぜジョンソン・エンド・ジョンソンでは時代の変化に合わせてクレドーを見直してきたのでしょうか。

玉井孝直社長(以下、玉井):クレドーを「4回も変えた」とも言えますし、あるいは「4回しか変えてこなかった」という表現もできるかもしれません。しかし、自社のことながら、クレドーはよくできていて、私自身もとても共感しています。

 基本的に、ジョンソン・エンド・ジョンソンに入社する際の面接でも、クレドーのことに触れないことはありません。クレドーはジョンソン・エンド・ジョンソンの経営の「羅針盤」という位置づけなので、それに共感できなければ入社してもらわなくてもいい、と言えるほど大事なものです。

 クレドーに共感して入社してくれる人は、本当の意味での仲間として迎えますが、「クレドーは単なるお題目で実際のビジネスには関係ない」と思っている人は仲間になっていただかないほうがいい。私も20年以上この会社で働いてきて、アメリカやシンガポールで勤務した経験もありますが、どこの国や地域に行っても、ジョンソン・エンド・ジョンソンの仲間としてクレドーを異なる解釈で捉えている人はいません。

 クレドーは49ヵ国・地域の言語に翻訳されていますが、これを絵に描いた餅にしないための仕組みが多くあるのも大きいと思います。

中竹:ジョンソン・エンド・ジョンソンの多様性は、クレドーという軸がある上での大前提なのですね。「多様性」は、一歩誤って捉えてしまうと、カルチャーフィットや理念、共感などをすべて取り払った言葉だと勘違いされてしまいます。ただ、それは単なるカオスです(笑)。

玉井:おっしゃる通りで、クレドーという「羅針盤」は非常に腑に落ちるものなんです。

 第一の責任として、当社はヘルスケアの会社なので患者さんや一般の消費者など、すべての顧客に対して最善の品質とサービスをお届けしなければなりません。そのためには製品の競争力を常に高める必要がありますし、自分たちだけが利益を上げればいいわけではなくて、ビジネスパートナーも正しく利益を上げられるようなサプライチェーンを構築しなくてはなりません。クレドーに書かれていることを読むと、本当にその通りだと思います。

 第二の責任には、社員一人ひとりが尊重され、仕事を通して目的意識と達成感を得られなければならない、社員一人の健康と幸福を支援して、社員が家族に対する責任と個人としての責任を果たすことができるよう配慮しなければならないと書かれています。これも共感できるもので、その軸がずれることはないと思います。

中竹:入社するときにクレドーを徹底するということは、クレドーの考えに基づいて業務を行っているということですよね。

玉井:そうなります。特にコロナ禍以降は、誰もがどのような価値観で判断を下すのかと悩むケースも増えたと思います。しかし、我々にはクレドーがあるので、幸い判断に迷うことはほとんどありません。

 第一の責任として患者さんの命に関わる製品を提供している関係上、病院への供給を止めてはいけないというミッションがあり、同時に家族を含めた社員一人ひとりが健康で安全にいるための最善策をとらなければなりません。

 そのために、もちろんできる限り安全を優先しながら、製品の安定供給になくてはならないサプライチェーンの業務を行って、医師のサポートのために病院に行く必要がある場合には病院側のガイドラインなどを守って安全に最大限の配慮をしたうえで行く、といった考え方をとっています。そこで、メッセージがぶれることはありません。

中竹:多くの企業は社是が絵に描いた餅になりがちです。それができたときには、「すばらしいものができた」と言いますが、やがては形骸化していきます。

 社是が具体的に使われているかどうかは、普段、仕事をする中で「問い」が立つかというところにあると、私は見ています。ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、クレドーを通して普段、具体的な問いかけをしていますか。

玉井:仕組みとしては毎年1回、全世界の全社員が参加するサーベイがあり、その結果を真摯に受け止めています。出てきた意見に対して、改善するべきところをチームでディスカッションし、それを「クレドー・アクションプラン」という形でまとめて、実際に取り組んでいます。

 こういう仕組みがあると、独自の分科会のような集団が生まれて、クレドーを実行する優れた取り組みが生まれてきます。それをほかの部門の人にシェアして、互いに学ぶような取り組みもしています。

中竹:リーダーだけではなく、一般社員にもクレドーが本当の意味で浸透しているんですね。

玉井:そう思います。クレドーから外れた行動をすることは、ジョンソン・エンド・ジョンソンの社員は誰もできないと思います。上司や周囲から「その行動はクレドーベースじゃないよね」と言われたとき、「そんなの知るか」と言える人はおそらくいないと思います。