『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』ではチームや企業の組織文化の変革方法についてまとめています。本書の中で組織文化を進化させる企業として紹介しているジョンソン・エンド・ジョンソン。本連載では玉井孝直社長への取材を3回に分けて紹介します。前編「J&Jの従業員が78年の間、世界中でクレドーを大切にしてきたワケ」中編「大震災、コロナ禍…未曾有の危機でもJ&Jの迅速な判断を支えたクレドー」に続き、後編ではクレドーが形骸化しない理由について教えてもらいました。(構成/新田匡央)

ジョンソン・エンド・ジョンソンの玉井孝直社長(写真左)と中竹竜二さん(Photo/竹井俊晴)

中竹竜二さん(以下、中竹):玉井社長はジョンソン・エンド・ジョンソンに入社されて20年以上の経験で、クレドーが揺らいだり、薄れたりした瞬間を目撃しましたか。

玉井孝直社長(以下、玉井):薄れたと感じたことはありません。ただ、事業運営には人間が関わっている以上、すべてが100%完璧な状態であり続けることは難しいと思います。それでも、どんなときでも会社のプロセスと社員の動きがクレドーに基づいていたかどうかは重要です。

 仮に誰かが、あるいは何らかのプロセスが、クレドーを無視したり、よかれと思う判断でクレドーにそぐわないことをしてしまったりしていたら、患者さんの命や健康に直結する可能性があるだけに、それが崩れることだけはないようにと思っています。

 我々の製品は患者さんの命を助ける反面、間違って使われたり、製品が正しく機能しなかったりすれば、非常に危険です。そういうリスクがあるため、クレドーの観点でも間違った対応をしていないかがもっとも重要になりますね。

中竹:社是を作ったものの、形骸化している会社は世の中にたくさん存在します。もし、そうした会社から「ジョンソン・エンド・ジョンソンのようになりたい」とアドバイスを求められたら、どのような言葉を伝えますか。社是が形骸化する会社と生きている会社では、何が違うのでしょうか。

玉井:常にセルフダウトを行い、形骸化していないかと自分に問うようにしています。

中竹:やはりセルフダウトをしているんですね。

玉井:はい。そのうえでクレドーベースのアクションがあれば、それはすばらしいとリーダーがメッセージを伝えていくことが重要です。

 もちろん進化させるための仕組みも大切です。形骸化という意味で言うと、自分の都合のいいところだけを見てしまうリスクはゼロではありませんから。

 たとえば、社員が権利ばかりを主張し、社員の責任を果たしていないようなケース。あるいは、品質の向上や製品のサプライに何らかの課題がある場合、自分たちで解決しなければならないという点を忘れ、問題を指摘するだけにとどまっていても仕方がありません。

 社是は、みんなのものです。「リーダー対社員」の構図ではありません。

 組織の中にいる人が全員で成し遂げなければならないということを、すべての人に、どのように伝え、理解してもらえるか。これについては日々悩んでいますが(笑)、それが私の役割の一つだと思っています。

中竹:ジョンソン・エンド・ジョンソンの社員には、しっかりと伝わっているのではないですか。

玉井:社員一人ひとりが意識をして、クレドー・サーベイの結果から改善を目指すクレドーアクションは、社員に根づいています。各部署でどのような取り組みをしているか、その取り組みを社員に発信することも実際にかなりやっています。企業によっては、そういうことに真剣に取り組むのは恥ずかしい、という価値観のところもありますよね。しかし、当社はそれがありません。「あいつは上司にアピールするためにやっているんだ」と考える人もいません。

中竹:きれいごとを普通に言えるのはいいことですね。

玉井:そうですね。そういう取り組みをしっかりできる人は、ほかのことにおいてもリーダーシップを発揮できるのではないでしょうか。そういう意味では、おのずからそういうことを発信する人がリーダー的なポジションになっていく可能性は高いとは思います。

中竹:すばらしい組織文化ですね。

玉井:まだまだ進化させていかなければならないと考えています。本当の意味でセルフダウトをやっていかなければ、成長は止まってしまいます。そういう危機感は常に持っています。ラグビーもそうですよね。どんなに強い大学でも、うまくいかなくなれば転げ落ちるように弱くなる。

中竹:そうですね。勝ち続ける「グレイトコーチ」は、毎日セルフダウトをして進化させようとしています。ただ、自分を疑うことはしますが、自分のビジョンは信じ続けている。

 このバランスが非常に大事だと言っています。セルフダウトをするからといって、目指しているものまで疑ってしまうとすべてが崩れてしまいますから。

玉井:わかります。私たちも何を使命として日々活動しているか、それは繰り返し伝えるようにしています。

中竹:理想に向かっている自分を信じ、いま足りないものは何かを問いかける。玉井社長はまさに、それを実践しているように思います。