PDCAの精度の低下は、事業の停滞に直結する

 ここで企業がいかに成長に至り、そしてなぜ停滞状態を招き、そこから抜け出すことができなくなるのかを簡単にまとめてみます。

 スタートアップ、つまり起業の時は、創業トップ、創業メンバーが、ユニークなアイデアを持って、市場の反応を見ながら、また打ち手の修正を行いながら、なんとか成功則を見出そうと日々、試行を重ね、高速のPDCAを廻します。

 そしてこの成功則を掴んだ時に、企業はブレークスルーをむかえて大きく成長します。この成長に伴い組織は大きくなり、社員も企業の成長に追いつくために日々忙しく過ごします。

 しかし多くの場合、前述のように本来この段階では「組織で廻すPDCA」を組織の能力として体得させることにトップの意識が向きません。そして勢いに任せた成長志向の事業運営が続くと、かつては創業メンバーが頭の中で緻密に廻していた事業のPDCAの精度が低下します。

 事業のPDCAの精度の低下は、若干の時間差があっても、必ず事業の停滞につながります。事業あるいは市場というものは、おもしろいもので勢いのある時、調子に乗っている時は、「慣性力」のようなものが働いて、企業側がやっていることに少々難ありでも、お客様はついてきてくれます。これは市場からの、目には見えない一種の「信頼」が作用しているということもできます。

 問題はこの「実は難あり」状態ながら、財務面で見た時に、大幅な減収や減益もなく航行している事業の陰で蔓延(はびこ)っている問題の大きさに、マネジメント側が気付いていないことです。

 一人ひとりのお客様を顧客化することが、いかに大切であるのか。そのための努力がどれだけ大変なのか。金額換算してみると、どれだけの費用と人手がかかっているのかを、経営側がリアルにイメージできていないのです。