均質な労働力が求められていた「モノの時代」は終わった

──そんな奥野さんの目から見て、「出世する人」「出世しない人」の違いはどこにあると思いますか? 一生懸命努力しているのに結果が出せない、認めてもらえない、出世できない……。その原因は、いったい何なのでしょうか。

奥野:出世できない人に共通しているのは、「自分で考えられない」ことです。「上司の言うとおりにやる」だけでは、30代半ばくらいで成長が止まるでしょうね。年功序列である程度のところまで行けたとしても、本当の意味での「マネージャー」になることはできない。

──本当の意味での「マネージャー」?

奥野:少し、歴史をふりかえって考えてみましょうか。日本の景気がよかった1990年以前は「モノの時代」だったんです。バブル経済のころの話です。世の中でモノが不足し、家電、マンション、自動車など、大勢の人が高級品を買い求めていました。日本企業は、欧米企業の真似をして工場を建て、モノを大量生産していた。

 つまり、昔はすでに成功している企業の「モデル」があり、「正解」通りに安く・大量にモノをつくれば企業は成り立っていたわけです。そういう時代に求められていたのは「均質な労働力」。つまり、上からの指示に従って一定水準のクオリティをアウトプットする労働力です。

 しかし、この30年で「モノ不足の時代」から「モノ余りの時代」になった。アメリカにある製品を真似して安く・大量につくるというビジネスモデルはもはや崩壊しているわけです。

──これをつくったら儲かる! というものは存在しないわけですね。

奥野:現在の、いわば「完全に答えのない世界」で勝つのはモノを作り出す人ではありません。アイデアを生み出す人です。社会の問題・課題を解決するアイデアを生み出した人が、世の中を動かすようになる。

 さて、そういった「アイデアの時代」には、どういう人が求められると思いますか?

──あっ、そうか……。「上の指示や正解を待つ人」ではなく、「自分で考えられる人」、でしょうか。

奥野:そのとおり。自分で考えて、新しいものを発想できる人。

本当のニーズは、お客様に聞いてもわからない

──でも、「新しいアイデアを生み出す」って、簡単ではないですよね……。

奥野:もちろん簡単ではありません。ただ、日本人って「イノベーション」とは何なのか、勘違いしている人が多いんですよ。たとえば、テレビのリモコン。「とにかく機能的にしなくちゃいけない」「新しい機能を」と凝りすぎてボタンをつけすぎちゃって、その結果、一番大事な再生ボタンがめちゃくちゃ小さくなってる、みたいなことよくあるでしょう?

──たしかに。えっ、再生ボタンどこ? みたいな(笑)。

奥野:新しい素材を生み出すことだけが「イノベーション」じゃないんです。iPhoneだって「イノベーション」だと言われているけれど、ボタンを増やしたわけじゃない。スタートボタンひとつだけの、余計なものを排除したスマートなデザインですよね。

 つまり、一番重要なのは「お客様の問題を発見する」こと。さらに噛み砕いて言うと、「お客様も気がついていない根本的な問題を発見し、価値を提供する」ことです。

──なるほど。「お客様も気がついていない」というのは、どういうことでしょう?

奥野:「本当にほしがっているものは、お客様に聞いてもわからない」ということです。たとえば、お客様に「どんな洗剤がほしいですか?」と聞いて、「安い洗剤がほしい」と答えたとします。それをそのまま受け取って、安い洗剤を売ってちゃダメなんですよ。

 その人が本当に欲しているのは、洗剤そのものじゃなくて「服が清潔である状態」だと気がつかなくちゃならない。そこから発想を広げてみれば、「洗剤がなくても使える洗濯機」があったらいいじゃないか、「汚れがつかない繊維」を開発してみようか、とアイデアが生まれるかもしれない。

 つまり、出世するために必要なのはスキルではないんです。お客様に価値を提供するんだ、と「お客様ファースト」で考えるマインドなんです。

 どんなに素晴らしいスキルが揃っていても、マインドがなければ意味がない。