ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』では組織文化の変革方法についてまとめています。組織文化について研究を進める中で、私が注目したのが大阪市立大空小学校。映画『みんなの学校』の題材になったこの学校には、不登校も特別支援学級もなく、みんなが同じ教室で学んでいます。どこにもない大空小学校の「空気」のつくり方を聞いてきました(詳細は「過去の悪しき文化をすべて否定したらすごい学校が生まれた!」「「空気」をつくれば、指示がなくても子どもは自分で動きだす」)。後編では子どもたちが自分らしくあるために、まずは大人がどうあるべきかを聞きました。(構成/新田匡央)

子どもが自分らしくなるには、まず大人が自分らしさを取り戻せ!中竹竜二さんと木村泰子さん(写真右)

中竹竜二さん(以下、中竹):インタビューの中編では、木村先生がどうやって子どもたちと一緒に大空小学校の空気をつくってきたのかについて教えてもらいました(詳細は「「空気」をつくれば、指示がなくても子どもは自分で動きだす」)。

 本当の組織文化ができてくると、一人ひとりがオーセンティシティー(自分らしさ)を持てるようになるんです。

 ただ、子どもたちが自分らしさを持つには、先生たちが自分らしさを持たなければならない

 お話を聞いていると、木村先生はとてもフラットで自分に正直だから、空気の違和感をキャッチできた。ご自分が正直に反応しているから、相手も正直に反応するようになる。この連鎖がひたすら続いて、結果としてみんなが自分らしく、自分の言葉で語れるようになったのかな、という気がしました。

木村泰子先生(以下、木村)本当にたくさんの傷ついた子どもがいましたが、校長を務めた9年間で、みんなが学校に居場所を持つことができました。自分がつくる自分の学校だから、自分が吸う空気を自分でつくる。なので、学校に来られないわけはありませんよね。

 多くの子どもが大空小学校には来られるけれど、前の学校には行くことができなかった。その理由を聞くと「空気が違う」と答えるんです。大空小学校の「空気をつくろう」という学びをまだ知らない子どもでも、「ここは空気が違う」と言うんです。

 それは、子どもが本来、感じていることだからです。「なんで学校に来られへんの?」「何か嫌なことがあるの?」「いじめられているの?」。先生も親も一生懸命に聞くけれど、そういうことではないから言えないんですよ。「学校に行ったらしんどくなる」「空気を吸われへんようになる」「過呼吸になる」「苦しくなる」。要するに、学校に吸える空気がない、ということです。

中竹:そういうことですね。

木村:吸える空気がないといっても、これまでの教育を受けて大人になった人間にはわけが分かりませんよね。

中竹:分からないと思います。

木村:でも、大空小学校に来て空気が吸えるようになった。前の学校の空気を聞くと「刑務所、監獄、牢屋やな」。思ったことを言っただけなのに「黙れ」と言われる。しんどくなって椅子から動いたら、「動くな」と言われる。苦しくなって教室から出たら、「逃げるな」と連れ戻される。「な、刑務所、牢屋と一緒やろう」。そう言うんです。

 それで、「じゃあ、大空小学校ってどんな空気?」と聞くと、1秒も間を空けずに「普通」と言うんですよ。

中竹:すごいとか、すばらしいではなくて、「普通」。

木村:少しは期待して聞いたんですよ、私は(笑)。でも、これほど自尊感情を高められた言葉はないですね。

中竹:映画『みんなの学校』にも描かれていましたが、ある子どもが学校から逃げ出そうとしたときに、木村先生がその子を引きずって教室に連れて帰るシーンがありました。

木村:あれは少し違うんです。これまでいじめを体験して不登校になっていた子が、あそこで家に帰ってしまったら、大空小学校にも来られなくなるのが見えているわけです。

「あなたの居場所はここにある。大空小学校は前の学校とは違う。あんたが思っている学校とは違う。学校はあんたがつくるんだよ。逃げてしまったら、あんたは明日から二度と学校で居場所をつくれなくなる」

 そういう思いが私の中にあったから、担ごうが何をしようが、この子をみんなの前にもう一度連れていかなければと思ったんです。連れていけば、確実にこの子はみんなの前で安心した居場所をつくることができる。周りの子どもたちを信用しているからです。そしてもう一つ、無理やり連れていくのが、あの子のプライドを守ってやることなんですね。

中竹:本当にそうですね。

木村:あの子は「オレ、もうこんな学校来えへんわ」と捨てぜりふを吐いて飛び出しているわけです。だとすると、「オレは帰ってくるの嫌やねんけど、こいつが連れてきたから仕方がないねん」という構図をつくってあげれば、戻りやすいんです。

 あの日から、あの子は自分の周りを信じ始めました。あのまま帰らせてしまっていたら、そうはならなかったはずです。

中竹:木村先生なら、きっとスポーツチームでも企業でも、空気をつくってすばらしいリーダーになれると思います。私たちは、先生の取り組みの中から数多くの学びを得ることができました。すばらしい話を、ありがとうございました。