グループ内では「反NTT(持ち株会社)の牙城」として知られるNTTドコモ。営業利益3位から脱却する新機軸が出ないドコモに業を煮やした澤田純・NTT社長は、ついに懐刀の井伊基之氏をドコモ社長として送り込んだ。特集『デジタル貧国の覇者 NTT』(全18回)の#6では、澤田社長がドコモ完全子会社化を決断するまでの内幕を追った。(本文中敬称略)(ダイヤモンド編集部 村井令二)
28年越しの完全子会社化
裏にあるNTTとドコモの葛藤
「ドコモを完全子会社にしたいと思っています」
2020年4月下旬。NTT社長の澤田純は東京・永田町のNTTドコモ本社で、ドコモ社長(当時)の吉澤和弘に切り出した。
突然の申し出に、やや動揺した吉澤は「少し待ってください」とだけ応じたが、その後、数週間を経て申し出の受け入れを決めた。
ドコモの「無血開城」が決まった瞬間だった。ドコモは7月、社外取締役による特別委員会を設置、同委員会が8~9月に掛けて株式の価格交渉に時間を費やしたため、NTTとドコモの正式な合意は9月29日にずれ込んだが、吉澤の腹は5月には固まっていた。
92年にNTTがドコモを分離してから28年ぶりの完全子会社化は4.2兆円もの巨額M&A(企業の合併・買収)。それもすべて「澤田社長が独りで決断した」(NTTグループ幹部)という。
澤田がそれほどの大きな決断に至った理由は何なのか。それは「通信業界3位」に転落したドコモの業績不振に業を煮やしただけではなく、6年に渡る葛藤があった。