本を介してお互い理解が深まり、
気持ちをシェアできる

―― テレワークが広がり、コミュニケーションをとること自体が難しくなっているので、岩瀬さんの本をツールとして役立てているわけですね。

岩瀬 そうですね。ぜひ『入社1年目の教科書』『入社1年目の教科書 ワークブック』を読んで、上司やトレーナー、メンターなどの先輩、あるいは同期で、どの項目が面白かった、つまらなかったと感想を言い合ったり、今月はこのルールを守ろうと目標を立て合ったり、「共通言語」としてこの本を活用していただきたいです。同じものを読む。それだけで、お互いに対する理解が深まりますし、気持ちをシェアすることで仲間意識を持てますから。

僕の本は一見すると、仕事のスキル、テクニックの本に思われるかもしれませんけど、読んでいただければまったく違うことがわかるはずです。この本は、仕事の基本となる50のルールを、やることの意味、前後の文脈、背景までも説明しています。

たとえば、「メールは24時間以内に返信せよ」「会議では新人でも必ず発言せよ」といったルールも、スキルやノウハウを伝えるだけの本であれば1行で終わるかもしれません。でも僕は、「なぜそうする必要があるのか」「そのことが自分の信頼にどう結びつくのか」「成長にどうつながるのか」といったところまで落とし込みました。

どの項目も、読んだ人が理解し、納得できるように、具体的な理由と説明を書いているのです。背景さえ理解すれば、やり方は必ずしもこの本のとおりでなくてもいいかもしれません。

『入社1年目の教科書 ワークブック』では、「遅刻の連絡はLINEでしてもいいですか?」といった質問に答えています。これについては、自分の会社や部署で「どのツールを使うと確実に上司や責任者と連絡がとれるか」を確認することが大切なことです。

つまり、「LINEでOK」という会社もあれば、「LINEはNG」という会社もある、ということ。重要なのは、「確実に伝わる方法を知っておくこと」で、それこそが、この本でお伝えしたいポイントなのです。

―― スキルやノウハウの先にあるもの。いわば仕事の本質が書かれているというのが、類書と一線を画すポイントだと思います。岩瀬さんご自身も、部下を育成する上で、この本に書いたことを伝えてきたかと思いますが、他に心がけてきたことはありますか。

岩瀬 やはり、自分を育ててくれた先輩や上司がしてくれたように、できるだけオン・ザ・ジョブで、仕事のやり方を見せるようにしてきました。顧客のところにも、可能な限り一緒に連れていきますし、会議の場でも部下に真似してほしいように振る舞っています。

また、若い人にできるだけチャンスを与えることも意識しました。ちょっと背伸びしないとできないような仕事でも、どんどん振ってしまうのです。僕自身も、若いときから経験に関係なく、大事な仕事を任せてもらえました。そのおかげで早く成長できましたし、実践に勝る学びはないと実感していますから。

ひとつだけテクニックっぽい話をすると、部下を注意するときは必ず「個別に、個室で、口頭で」話すようにしています。さらに、1つ注意するときは、3つくらい褒める。そうして正直に素直に、心を込めて丁寧にフィードバックすることを、今も心がけています。