ライターたちが目覚めれば、
世のなかは変わる

──たしかに、「ライター」という職業が若干下に見られているような風潮を感じることはありますね。「文筆家」「作家」「エッセイスト」のような肩書きのほうが上、というような。あくまでも、わたしの印象でしかないのですが。

古賀:うん。ライター自身が引け目を感じている場合もありますよね。ライターじゃない書き手の人が「わたしをライターって呼ばないで」と主張している姿を見かけることもある。

でも、『取材・執筆・推敲』のなかでも書きましたが、ライターは「作家に満たない書き手」の総称などでは、まったくないんです。奥が深い仕事だし、社会的にもおおきな価値を持っている。若手のライターさんたちがその価値に目覚めてくれたら、ぜったいに世のなかが変わると、ぼくは真剣に思っている。それも、この本を書いた理由のひとつでした。

──そうですね、読み終わったあと、なんて誇り高い仕事なんだろうと感じました。

古賀:たぶん、この本を最後まで読んで、「ライター」という職業をバカにできる人はいないと思うんですよね。「ああ、ここまでやるのか」と思ってくれるはずで。おそらく「ライター」という職業についての見方も変わるだろうし、ぼくのあとに続く若いライターさんたちが、変な偏見で見られることもなくなる。自分の仕事に自信が持てるようになると。

──はい、そうだと思います!

古賀:そのかわり、「ライターを名乗るんだったら、ここまでやらなきゃダメだよ」っていうハードルにはなるんでしょうけどね(笑)。

──た、たしかに(笑)。

古賀:ライターという仕事がどれだけ大変で、おもしろくって、奥深い仕事なのか……。「プロの仕事論」としてこの本を読んでくれたら、理解してもらえるはずです。だから、この本を書いたのはもちろん自分のためでもあるけど、これからのライターさんたちのためでもあるんです。ある種、偏見からの「盾」になる本、というか。

糸井重里さんが
「コピーライター」を名乗り続ける理由

──その小説家さんとの出来事がきっかけだったんですね。いやー、これは予想外でした。

古賀:もちろん、ぼくも「とりあえずライターと名乗っておくか。記者でもエッセイストでもないし」くらいの気持ちで考えていた時期が長かったんですよ。でも、10年、15年と経つうちに、ライターという仕事についてきちんと向き合わなきゃいけなくなってきた。一生続ける仕事ですからね。

そんなあるとき、糸井重里さんにお会いして、糸井さんが「コピーライター」を名乗り続ける理由を聞いたんです。糸井さんはゲームをつくったり、作詞をしたり、テレビ番組で司会をされたり、もちろん「ほぼ日」という会社をされていたりと、多方面にわたって仕事をされているけれど、一貫して肩書きは「コピーライター」です。そのコピーライターという肩書きが邪魔になったり、ほかの肩書きにしたいと思ったことはないんですか? と聞いたんです。コピーライターにはどうしても「うまいこと言ってお金をもらう人」という偏見がつきまとうので。

──なるほど。

古賀:すると糸井さんは、「コピーライターはなんでもできる職業で、こんなにいろんなことができるんだぞ」と世のなかに知らしめたかった、だからずっと「コピーライター」の肩書きを守り続けてきたんだよ、とおっしゃっていて。それは、ぼくにとって強く背中を押してもらえる言葉だったんです。

ぼくも今後なにをするにせよ、ぜんぶ「ライター」という肩書きのなかでやっていきたい。「ライターのトップになりたい」と思ったことはないけど(笑)、ライターへの偏見をなくして、その価値を高めていきたいんです。

──ああ、多くのライターが、ほんとうに励まされると思います。

古賀:べつに「ライターの待遇改善を!」みたいに訴えたいわけじゃないですよ。よくフリーのライターさんたちが、ネットワークをつくって待遇改善を訴えたりしているのを見ますけど、その列に並ぼうとは思わない。「待遇が悪いとすれば、自分の力が足りないせいだ」としかぼくは思わないので。

──(笑)

古賀:ただ、本当にプロと呼べるライターはここまでやっているし、ここまで価値がある仕事なんだよ、ということは伝えたいし、そういうライターを増やしていきたいとは思いますよね。

いま、ぼくが心から信頼するライターさんって、たぶん5人もいないと思うんですけど、その5人が50人、100人と増えていったら、それだけで世の中がひっくりかえるインパクトがあると思うんです。だから、『取材・執筆・推敲』を読んでくれた人たちが、ぼくなんかをはるかに超えるスーパーライターになって、革命を起こしてくれたらいい。そういう世のなかをつくるのが、いまのぼくの夢です。

【大好評連載】
第1回目 なぜベストセラー著者になっても「作家」ではなく「ライター」の肩書きを選ぶのか?
第2回目 「バズらせること」と「読者を騙すこと」の曖昧な境界線
第3回目 ベストセラーライターが語る「わかりやすい文章」の落とし穴
第4回目 日本トップクラスのライターが、無料note記事を1500日以上更新し続ける理由

なぜベストセラー著者になっても「作家」ではなく「ライター」の肩書きを選ぶのか?