年収は最大70万円減り
生涯賃金で2500万円減る

 桐蔭学園は2019年秋、「財政状況は中長期的に見ると厳しい」とし、教職員全員に電子メールで財政再建案を送った。

 その中で財政難の理由として生徒数減少や人件費比率が高いことを挙げた。そして学園の理事以下の人件費削減、授業料引き上げ、遊休資産の売却などの財政再建案を示した。

 桐蔭学園は20年3月に賞与水準の引き下げと入試手当(11万6000円)の廃止を正式に決めた。賞与水準の引き下げは20年冬から始まり、20~60代の原告たちの20年冬の賞与は、従来の計算式による算出額と比べて約13万~27万円下がった。

 原告によると、今後も賞与水準の引き下げと入試手当の廃止が続けば、年収で最大約70万円減り、現在20代の教師の生涯賃金では約2500万円減るという。

 一般的に賞与は業績変動で額が上下するものと理解されており、桐蔭学園の代理人弁護士も第1回口頭弁論でその点を言及した。

 だが原告は捉え方が異なる。1990年代半ばの団体交渉の結果、「本校において賞与は基本給と同様の『生活給』としての位置付けになっていた」と主張する。

 当時、神奈川県の私立学校教職員が組織する労働組合である神奈川私学教職員組合連合(神奈川私教連)の平均レベルまで賃金を引き上げるよう求めた結果、「賞与を含めた年収レベルで措置する」ことで、労使間で落ち着いたというのだ。入試手当も同じ趣旨で11万6000円に倍増されたという。

 この頃に決まった賞与の計算式と入試手当額は約25年間維持されており、原告は「労使協定としての性格がある」「長年の労使慣行であり労働契約の内容になっている」と主張する。

 また原告は、15年の学園創立50周年記念事業が財政難に陥った主要因であると指摘する。15年度の財務諸表では約20億円もの借入金等収入を計上している。原告は、その多くは体育館やグラウンドの建設が行われた記念事業に関する支払いだったとみており、「記念事業は募金で賄うと説明していたのに、放漫経営というほかない」と糾弾する。