有力私立学校グループは高給
しかし「大前提」がある

 第1回口頭弁論で桐蔭学園の代理人弁護士は、今後の主張の骨子になりそうな2点に触れた。

 一つ目として、学園の財政が極めて厳しく、文科省の経営指導を受けていることを明らかにした。財政難の深刻度をもって、賃金ダウンの「必要性」「合理性」を立証していく意図なのだろう。

 桐蔭学園は幼稚園から大学(桐蔭横浜大学)まで総合的に運営している。文科省は近年、私立大学を運営する財政難の学校法人に対して経営指導を強化しており、桐蔭学園はその対象になっていたようだ。

 桐蔭学園はダイヤモンド編集部の取材に「係争中の事案であり、コメントは差し控える」としているが、財務諸表を見ると台所事情は厳しい。

 企業会計で純利益(最終利益)に相当する「基本金組入前収支差額」は近年赤字続きだ。その赤字額は16年度で11億3300万円、17年度14億1800万円、18年度6億6700万円、19年度11億3500万円に上る。

 安定経営の基礎となる「翌年度繰越支払資金」(翌年度に繰り越す現金・預金)は毎年度約2億~7億円ずつ減少しており、19年度の同資金は36億8300万円となっている。学園は同資金が20億円を切ると「支払資金がショートする月が出てくる」と推計しており、減少ペースに相当な危機感を持っている。

 裁判で学園側の主張の骨子となるだろう二つ目は、県内私学の平均年収に学園の年収を比肩させた過去の経緯に触れ、「現在は他校がどんどん下がって、うちはかなり上回っている」と述べたことだ。これは賃金ダウンの「相当性」の立証を狙う発言だろう。ただし原告によると、裁判前に示されたデータは検証可能か疑わしいものだったという。

 規模が大きく有力な私立学校グループの教師は、民間の大企業の社員がそうであるように、公立や規模の小さな私立の教師よりも賃金に恵まれやすい(本特集#3『早稲田の教員は40歳で「年収1107万円」、大学付属校の年収全公開【首都圏16校・年齢別】』参照)。

 ただ、それは経営がうまくいっていることが大前提だ。経営が厳しくなれば、これまた民間企業と同様に経営責任や賃金ダウンを巡って労使間がこじれる。聖職者扱いされる教師も一人の労働者なのである。

Key Visual by Noriyo Shinoda