「こんまり」こと近藤麻理恵は世界で最も有名な日本人の一人。彼女の世界進出を手がけたプロデューサー兼夫である私の書籍『Be Yourself』では、こんまりが世界で活躍するようになった舞台裏を明かしています。今回対談する尾原和啓さんは新刊『プロセスエコノミー』を出したばかり。川原さんは人に理解されるには2歩も3歩も先のことではなく、0.5歩先くらいの情報を伝えることが大事だと語ります。(構成/宮本恵理子)
■尾原さん×川原さん対談01回目▶「尾原和啓×川原卓巳「DXの次はEXの時代が来る!」」
■尾原さん×川原さん対談02回目▶「片づけを「苦」から「楽しい」に転換して、こんまりは世界で売れた」
■尾原さん×川原さん対談03回目▶尾原和啓「Netflixもこんまりも尖らせたから世界で勝てた」
■尾原さん×川原さん対談04回目▶「プロセスエコノミーは「顧客の自己実現」ができるから受けるんだ」
川原卓巳さん(以下、川原) これまでの対話の中でもお伝えしてきた「EX(エンターテインメント・トランスフォーメーション)」の実践において、僕が一番意識しているのは「恐れの排除」なんですよね。
尾原和啓さん(以下、尾原) 恐れの排除。これもキーワードですね。
川原 はい。恐れがあると共犯関係になれないし、没頭も生まれないんです。だから、恐れの排除が大事。心理的安全性の確保、と言い換えてもいいと思います。
尾原 恐れは「酸っぱい葡萄」をつくり出すとも言えますよね。「正しくない」を生み出してしまう。「正しい・正しくない」の物差しに支配されると、プロセスを楽しめなくなる。すると、遠くに行けなくなってしまう。
川原 その通りですね。
尾原 さらに言うと、恐れを排除した世界の中で遠くまで行けると何が起きるか。イノベーションが起こるんです。経済学者のヨーゼフ・シュンペーターさんが1912年に「イノベーション」を定義したとき、「新結合」だと言っているんです。つまり、異なるもの同士の組み合わせ。
イノベーションを起こすには、遠くまでいくことが大事なのです。近所にいたらなじみの人としかつながらないけれど、遠くまで行けば未知の人と出会えますよね。
川原 楽しさを求めることは、イノベーションにもつながる。
尾原 これに関連してもう一つ、いいですか。新結合を促進するには、未知のものを楽しく学ぼうとする姿勢が不可欠です。
アクティブラーニングという会社の創業者、羽根拓也さんから教えていただいた理論がすごくおもしろくて、「価値=違い×理解」なのだそうです。青い林檎がたくさんある中に、1個だけ赤い林檎がある。
すると「おいしそう」という価値になる。ただし、赤いリンゴが熟れ過ぎてドロドロとした見た目になっていたら、手に取られなくなる。価値の最大化とは、相手が理解できる範囲の中で最大の違いをつくることによって実現する。
川原 あー、すごく分かります。僕に相談しにくる人たちって、ものすごくおもしろい取り組みをしているのに、「なかなか世の中に伝わらないんです」と悩んでいる人が多いんですよね。
その原因として、世の中が理解できるラインの2歩先、3歩先まで進んじゃっていることがよくあるんです。どんなに正しくて本質的なことであっても、人が価値を感じられる範囲で差異として表現する必要があるので、0.5歩先くらいにまで調整してみる。そんな提案を僕はよくしているんです。
尾原 それがプロデュースという仕事なんですね。
川原 「深める」と「浅める」のバランスが重要なんです。本質的な価値は、ドロドロリンゴになるまで深めていい。でも、それをそのまま「はい、どうぞ」と渡しても、毒リンゴじゃないかと警戒されるだけ。
尾原 我々みたいにね(笑)
川原 はい、我々みたいに。甘んじて受け入れます(笑)。その毒リンゴの見た目を調整して、おいしそうな赤いリンゴとして表現するのが、ブランディングであり、マーケティングなんですよね。
尾原 片づけを「ときめき」や「禅」の文脈に乗せて表現するということ?
川原 イエス。
尾原 うまい。なるほどなぁ。
川原 すると、みんなが「これ、おいしいね」「きれいだね」と会話をしながら手に取りやすくなるんです。一口、二口と食べていくと、ドロドロリンゴの奥深さを味わえるようにしているから、「こんな経験したことない」と感動してもらえる。そして、周りにも広げてもらえる。
尾原 入り口は入りやすく。入ってみると未経験の深みにハマるから、人に伝えたくなるんですね。「深める」と「浅める」と卓巳さんは表現しましたが、今の説明を聞くと、「つなげる」という意味も含んでいるように思います。
恐れを感じて「正しくない」と言いながら拒否して逃げそうな相手を、振り返らせて、つなげて、一緒に遠くまで連れていく。そこには新結合があり、イノベーションも生まれる。これがEXだ!
川原 最高のまとめ、ありがとうございます。まず、余計なものを手放して、自分が夢中になれるものに集中し、価値をつくる。その価値を、たくさんの人にかじってもらえるには、どんな形や香りがいいかを考える。
キーワードは、共犯者になれる冒険の仲間づくり。尾原っち、今日は学びをふんだんにいただき、ありがとうございました。