「自分の考えや打ち合わせ内容をその場で図解する。このテクニックがあれば、会議、ブレスト、プレゼンが劇的に変わる。考える力と伝える力が見違えるようにアップする」
こう語るのは、アートディレクター日高由美子氏。「ITエンジニア本大賞2021」のビジネス書部門グランプリを獲得した『なんでも図解ーー絵心ゼロでもできる! 爆速アウトプット術』の著者だ。「フレームワーク」や「キレイな絵」を一切排除し、瞬間的なアウトプット力の向上を徹底的に追求するワークショップ、「地獄のお絵描き道場」を10年以上続けている。複雑なことをシンプルに、難しい内容をわかりやすく。絵心ゼロの人であっても、「その場で」「なんでも」図解する力が身につくと評判になり、募集をかけてもすぐキャンセル待ちに。
本連載では「絵心ゼロの人であっても、伝わる図を瞬時に書くためのテクニック」を伝える。
とても怖い「中等症」。「重症」との違いは?
感染者数が激増している新型コロナ。「最初は症状が軽くても、急速に悪化することが多い」とニュースで報じられています。軽症・中等症・重症の基準や、中等症の中でもどんな分類が存在するのか、など、症状や危険性についてあらためて認識することが大切かもしれません。
今回はNHK NEWSWEBや、厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き」などの内容を参考にして新型コロナの重症度の分類について図解してみました。
【参考記事】※タイトルクリックで飛びます
○新型コロナ 中等症でも急速に悪化 重症に転じるケース相次ぐ
○新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第5.1版
大まかな下書きからはじめよう!
まずは記事を読み、大まかに図にしてみます。
新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、首都圏の患者の治療にあたる大学病院では、中等症で入院した患者が数日後、重症に転じるケースが相次いでいます。医師は「重症はこれまでと比べて少ないと言われるが、実は重症という氷山の下に中等症が大勢いて、いつ悪化するか分からず、警戒を緩められない」と訴えています。
(中略)
重症度は4段階に分類
厚生労働省によりますと、新型コロナの対応にあたる医療現場では、重症度について、「重症」「中等症2」「中等症1」「軽症」の4段階に分類しています。
このうち、「中等症2」は、血液中の酸素の数値が93%以下になり、呼吸不全が生じている状態で、人工呼吸器の装着を検討する段階だとしています。
これは、人工呼吸器や人工心肺装置=ECMOを装着した「重症」に次いで重い症状に分類されています。
「新型コロナ 中等症でも急速に悪化 重症に転じるケース相次ぐ」より
※分類参考
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第5.1版」
「コロナ第5波『中等症から重症に転じるケースも』実態は?」
※中等症の分類の数字は記事に沿ってアラビア数字で表記しています
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記事では「中等症で入院した患者が数日後、重症に転じるケースが相次いでいる」という内容を「重症という氷山の下に中等症が大勢いて...」という比喩とともに表現しています。ここから、ビジュアルをどのようにするか考えていきます。
図解は最初から完成に近いものが書けるとは限りません。どんなふうに表現できるか、紙とペンで試行錯誤しながら考えを整理していきましょう。
今回は議論をスピーディに記録する図解ではなく、一人歩きする資料の中の図解であることを前提に作成します。資料を読み、手を動かしながら、内容や図解のバランス・構成など考えます。この段階で複数のアイデアが出て、どれを進めるか迷う時もあるかもしれません。
そんな時は「図解する目的」を明確にして表現を絞っていくとスムーズです。たとえば、記事の内容から作成できる図解として、
●分類だけを表にして、症状とその判断基準をしっかりと伝える
●分類と、そこからの考察も合わせて伝える
●メッセージにフォーカスしてインパクトのあるビジュアルにする
いくつかのアプローチが考えられます。今回は、「分類」を伝えつつ中等症から重症への急激な変化の「危険を知らせる」ことが目的と考え、それに沿って進めます。重症度の分類の見せ方に、氷山の表現がどう効果的にプラスされるか、「考察」をどう表現するかがポイントとなりそうです。
自問自答しながらよりわかりやすい図解へ
それでは、図を作成するにあたってどんな工夫をしているかを一連の過程を経て見ていきましょう。まずは文章をもとに作成した氷山のイメージと重症度の分類表を並べた状態が以下の図です。
いかがでしょうか。記事の内容がわかりやすく表現できている図解と言えるでしょうか。
改善策を考える時は一度配置してから第三者の目で「ツッコミ」を入れてみましょう。「この氷山は何を意味している?」「この表では読み解きに時間がかかりそう」などの声が聞こえ、次の打ち手が見えてきます。
位置合わせと色の調整で内容を明確に
それでは、図を改善していきましょう。改善の工夫として以下の3つが考えられます。
●氷山の一角(先端)の位置と重症を説明しているブロックの位置を合わせ、意味が伝わりやすい配置にする
●重症~軽症の症状の度合いを色に差をつけてわかりやすくする
●氷山が表現する意味が伝わるように、氷山自体に症状名を補足する
下図を見てください。
表の階層の色分けは、カラフルになりすぎぬよう赤系統に絞り、見る人を迷わせないようにしています。これらの改善をプラスした結果、症状の分類が明確になり、氷山のビジュアルもその意味がわかりやすくなりました。下図を見てください。
氷山の表現、わかるようでわかりにくい…
とはいえ、ここでも「ツッコミ」が脳裏に浮かびます。「氷山のテキスト、やっぱりわかるようでわからない」「左右の要素の関係性が伝わらない」…
この図をさらに改善するにはどうしたらいいでしょうか。ここで、図解の「型」を利用します。