日本を、未来のライフスタイルの実験場に
関根 ムーンショット目標に掲げられたような未来を目指す中で、日本が世界で果たしていける役割にはどのようなものがあるとお考えですか。
南澤 架空のものをポップに受容させるカルチャーをうまく使えば、新時代のライフスタイルを世界に先駆けて実践していく「ファーストペンギン」になれるのではないか、と思っています。
日本には、ゲームやアニメ、ゆるキャラといった文化的土壌があるせいか、バーチャルなものを非常に楽観的に受け入れる傾向があります。VR技術も、米国なら特殊技能の訓練に使う、というような有用性を追求する方向に行きがちですが、日本ではかわいい女の子になってみたり、キャラクターと遊んだりする方向に行く。「役に立つ」より「心地いい」「楽しい」を優先したり肯定したりする傾向があるのです。
一方、日本に欠けているのは国際協調や国際連携といった俯瞰的な視点です。日本国内の議論は、技術論にせよ社会論にせよ視点が狭くなりがちです。それをいい意味でのユニークネスとして武器にできるか、世界に立ち遅れるボトルネックになるのか、それはこれからの取り組みに懸かっています。
関根 ムーンショットプログラムの研究開発期間は原則として5年間で、2025年に一区切りを迎えるわけですが、見通しはいかがですか。
南澤 全てを実現するのは無理ですが、少なくとも、時空を超えて感覚や経験が共有できる未来像を分かりやすく示したいと思います。バリアフリー化についてはもちろんですが、CAでこんな面白いスポーツやエンターテインメントが実現するよ、というような楽しい側面も見せていきたいと思っています。ぜひご期待ください。
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD) 教授。2005年 東京大学工学部計数工学科卒業。2010年 同大学院情報理工学系研究科博士課程修了。博士(情報理工学)。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 特別研究助教、特任講師、准教授を経て2019年より現職。JSTムーンショット型研究開発事業プロジェクトマネージャー、超人スポーツ協会事務局長、Telexistence inc. 技術顧問等を兼務。KMD Embodied Media Projectを主宰し、身体的経験を伝送・拡張・創造する身体性メディアやサイバネティック・アバター技術の研究開発と社会実装、Haptic Designを通じた触感デザインの普及展開、新たなスポーツを創り出す超人スポーツやスポーツ共創の活動を推進。東京大学情報理工学系研究科長賞、日本バーチャルリアリティ学会論文賞・学術奨励賞、計測自動制御学会技術業績賞、グッドデザイン賞など各賞受賞。 KMD Embodied Media Project — http://embodiedmedia.org
JST Moonshot Cybernetic being Project — http://cybernetic-being.org
Haptic Design Project — http://hapticdesign.org
超人スポーツ協会 — http://superhuman-sports.org