小さなことでも気になる、いつまでも引きずってしまう、ささいなことに反応して傷ついてしまうから、毎日が生きづらくて苦しい……そう感じるあなたは、病気でも、おかしいのでもありません。
傷つきやすい人は、敏感で繊細な気質で知られるHSPの人に限らず、内向的な性格の人、心に大きな傷を負った経験のある人、毒親のもとで育った人、アダルトチルドレンなど、いろいろなケースがあります。
みさきじゅりさんは、ご自身もそんな傷つきやすさに長く悩んできたHSS型HSPで、HSP研究の第一人者、E・アーロン博士の専門家認定プログラムを修了したキャリアコンサルタントです。
自身の体験などをもとに書かれた著書『とても傷つきやすい人が無神経な人に悩まされずに生きる方法』では、すべての傷つきやすい人ができるだけ傷つかず、おだやかな日々を過ごすヒントを教えてくれています。今回は特別に、本書には収録しきれなかったエピソードをご紹介します。

【そんなつもりじゃなかったのに!】部下に嫌われがちな上司がつい、無意識にやってしまいがちなことPhoto: Adobe Stock
【そんなつもりじゃなかったのに!】部下に嫌われがちな上司がつい、無意識にやってしまいがちなことみさきじゅり
HSP研究の第一人者エレイン・アーロン博士の専門家認定プログラム、日本人初の修了者。HSP専門のカウンセラーであり、キャリアコンサルタント(厚生労働省認定国家資格)
自身もナイーブな感受性と好奇心の旺盛さを併せ持つ「刺激追求型」のHSP(HSS)。
青山学院大学国際政治経済学部卒業後、東芝に入社。その後、ノキア・ジャパン、シリコンバレーのスタートアップ、アジア系IT企業などで、法人営業、外国人エンジニアの人材育成、大学生就活支援を経験。2017年、キャリアコンサルタントの国家資格取得。
2018年、アーロン博士の「専門家認定プログラム」を修了。アーロン博士のサイトにてHSPに精通しているキャリアコーチとして正式に登録されている。クライアントは日本国内にとどまらず、ヨーロッパ、アジアなどからも訪れる。2018年9月、アーロン博士の講演を含むHSP Gathering Retreatsに唯一の日本人として参加するなど、国内外におけるHSPの最新動向に詳しい。著書に『ささいなことに動揺してしまう 敏感すぎる人の「仕事の不安」がなくなる本』(秀和システム)、監修に『繊細すぎて生きづらい~私はHSP漫画家』(おかだちえ 著 ぶんか社)、『「敏感すぎて疲れやすい人」がおだやかに暮らしていくための本』(中島智子 著 秀和システム)などがある。
<撮影:松島和彦>

そんなつもりじゃなかったのに…

初めてプロジェクトリーダーを任され、張り切っていたのに、部下からの不満を耳にしてしまい、深く傷ついてしまったMさんからの相談です。

「これまでの経歴をかわれて、数年前に今の会社へ転職しました。

着々と評価もあがり、新規プロジェクトのマネジメントを任されることに。憧れていたポジションで張り切っていました。

プロジェクトの内容は大好きなのですが、部下が『Mさんからプレッシャーをかけられて辛い。転職しようかと思っている』と周りにこぼしているという噂を聞いてしまいました。あまりにもショックで、夜も眠れません」

職務上の心の陣地を再確認

眠れないほどショックを受けてしまったMさん。Mさんのプロジェクトへの思いの強さや方向性が、部下のそれとズレてしまったのでしょう。Mさんがイメージしているプロジェクトの運営状況と、実際に運営を手伝っている部下の持つ認識との間のズレ、ですね。

物事をどのように認識しているかは、心の陣地の在り方に関係があります。認識が、その人の価値観や、仕事への取り組みとして現れ、他者との関わり方に影響が及びます。

そして、こういうやり方で進めたい、ここまでやりたい、など「やり方」の違いを生みます。この違いが、他人と自分とのズレとなり、ズレを刷り合わせないまま互いに自分のやり方を主張すると、人間関係のストレスとなります。

人は誰でも、無意識に自分のやり方に自信を持っています。無意識に持っているものなので、自信を持っていることすら感じていないことが多いものです。

ですから、相手からすると、その人のやり方を一方的に押し付けられ、不快に感じることがあります。言い換えると、相手はあなたに、自分の心の陣地に踏み込んできた、という不快感を覚えるのです。

Mさんにまったく悪気はなかったはずです。むしろ、張り切っていました。部下からすると、その張り切りが、部下の心の陣地へ踏み込んできたように感じてしまったのでしょう。

仕事、という視点で考えると、Mさんは部下との関係性を修復して、部下に何とかプロジェクトにとどまってもらうことが大切です。しかし、Mさんは、傷つきやすい、高感度アンテナの持ち主です。まじめなMさんは、部下を傷つけてしまったショック、しかも部下から直接ではなく他の人から聞いてしまったというショックから、とても責任を感じています。

部下との関係修復の前に、まずは自身の心のケアを優先しましょう。

部下に対し、悪気はなかったけれど、傷つけてしまった……。高感度アンテナの持ち主であれば、自分が傷ついた時の心の傷の深さを痛感しているからこそ、自分が誰かを傷つけてしまったと受け入れるのは容易ではありません。

ひとりで受け入れるのが辛い時は、Mさんの人柄をわかってくれている人に、ショックな気持ちを聞いてもらいましょう。それから、部下に、申し訳ないと思っていることを伝えてみましょう。

けれどこの時、部下が、Mさんの気持ちを受け入れてくれない可能性があることも頭の片隅においておいてください。部下がMさんの気持ちを受け入れてくれるかは、部下の問題です。部下に自分の気持ちを受け入れてもらえなかったとしても、誠実なコミュニケーションをとることで、

「私は自分の気持ちを伝えることはできた、ベストを尽くした」

そう思えることが、心の傷を癒す大きな一歩となるものです。