指名委員会等設置会社は
すでに時代遅れ?
実はこの投資家と組んで経営を良くするというアプローチは、世界中ですでに始まっています。2019年にハーバード大学で開かれたカンファレンスにて、「ボード3.0」という概念が提唱されました。
少し解説しますと、今の日本でいうところの監査役会設置会社(マネジメントボードという言われ方をします)は「ボード1.0」時代の考え方です。これではいけないということで、現在、モニタリングボード(日本でいう指名委員会等設置会社)に移行して、監督と執行を分離しようという動きが始まっています。それが「ボード2.0」時代の議論です。まさに今、ここに向けて必死にガバナンス改革を進めている最中です。
ところがすでにアメリカでは、もっと先があるのではないか、「ボード2.0」では不十分なのではないかという議論が巻き起こっています。なぜかというと、このボード2.0で社外取締役として参加されている方には情報がなく、十分な役割を果たせるのかに疑問が呈されているからです。
社外取締役の方の元には事務局と分析スタッフ、調査スタッフがいるわけではないため、会社の情報が全然集まりません。そうなると、過去の経験だけに基づいて発言せざるを得ません。また、すでに名を遂げた経営者ですから、モチベーションも上がらないでしょう。その方は確かに過去の経験から意見を言えるかもしれませんが、この会社を絶対何とかしなければならないというモチベーションは持ちづらい。これでよいのかという議論が起きており、その解決策として生まれたのが、この「ボード3.0」という考え方です。
ボード3.0では、プライベート・エクイティ・ファンドが投資している会社のボードを参考にしています。プライベート・エクイティ・ファンドが投資をしている会社のCEOには、なかなか強い緊張感があり、業績が不振なら代えられかねません。
また、社外取締役には業界に詳しい経営経験者もいます。その上、中堅のファンドディレクターが「この会社を良くしない限り自分の将来のキャリアはない」というモチベーションの高さでボードに参加しています。さらに、ファンドが分析リソースを十分に提供します。このバックアップの下に、ディレクターがキャリアをかけてボードを良くしよう、意思決定を良くしようという想いでボードに参加しているのです。まさに、投資家を経営の真ん中に引き込もうという考え方です。
実は北欧でも、北米でも、すでに経営者と投資家の薩長同盟が進んでいます。北欧では、大株主は指名委員会に乗ることができたり、アクティビストも還元一辺倒ではなく、みずからボードに参加したりして、「投資家の思考と技術」を経営に取り込もうとしています。