田中:おもしろく盛り上がっている人のそばにいて、自分が何も言えなかったら「人生、負けてる」と思うんでしょう。それは人生の大損失で、最後は死んで火葬されちゃうと心配なんでしょう。そんな心配いりません。みんな最後は死んで火葬されます。

──勝っても負けても火葬。

田中:まさに。そういう人は、人生を常に「勝ち負け」だと思ってるきらいがある。「観客」でいいんですよ。僕もプロ野球をよく観に行きますけど、グラウンドに降りてバットを振ろうと思ったことは一回もない。ビール飲んでからあげ食べてます。それが「楽になる」ってことです。でも、なぜかみんな野球をやろうとする。プロ野球を観に行って「おれの打順は何番や?」って。絶対回ってこないですよ。

──でも、小学校の時とかって「笑いをとるヤツ」がモテたり、人気者だったりするじゃないですか。それがうらやましいというか、自分も「笑わせる側に回りたい」と思う気持ちも、私はわかるんですけれど。

田中:わかります。しかし、それをやるには子どもの頃からめっちゃリスク取ってこないとダメです。わたしはスベりまくって52歳。今でも9割スベってます。1割ちょっと笑ってもらえたらラッキー。うちの家族なんて完全にわたしのことバカ扱いです。よその人に紹介するときは「この人、しょうもないことばっかり言うんで本当にすみません。我慢してください」って最初に言われます。

でも、それでいいんです。10回言ってそのうち1回は相手もどっと笑ってくれたらいい。1割バッター。本の印税と一緒ですよ。辛い思いして原稿書いてもダイヤモンド社が9割持っていきます。

──そのくらい理不尽な思いをしてきた人がボケる側に回れるということですか?

田中:そうです。印税1割は本当に理不尽ですから。たぶん、そういうのがしんどいから世間では『すっと輪に入っていける会話術24の法則』的な本があふれるんでしょう。24の法則って多すぎやろ。別に、無理して輪に入らなくたっていいじゃないですか。横で聞いて黙って笑っていたほうがラクだし、楽しいんじゃないかなと思います。

──ボケまくる田中さんも、輪に入れずにただ笑っていることもあるんですか?

田中:もちろんですよ。たとえばわたしが経済諮問会議みたいなところに参加させられたって、何もわからないですから。「ああ、アメリカの公定歩合とか言うてはるわぁ~」と心の中で思いつつ、「いや~、いいっすね、公定歩合」とか言いながらへらへら笑ってるだけでしょう。

──最近はあまりないですけど、立食パーティーなんかも、私は辛いです……。

田中:あれは世界一苦手ですね。知らん人同士が輪になって「週末は何をして過ごしていたんだい?」から始まって「あるところに4歳の少年がいてね」とか小粋なパーティジョークを言わなきゃいけないわけでしょう。そういうときは、パーティ冒頭で偉い人が挨拶しているときにビュッフェを山盛りにしてひたすら食べて腹いっぱいになったらすぐ帰ります。無理して会話の輪に入ろうとしなくていい。それが「ラクになる」ということだとわたしは思います。

第2回に続く

大阪生まれのコピーライターが「ツッコミはマウンティング」と断じる理由
田中泰延(たなか・ひろのぶ)
1969年大阪生まれ。早稲田大学第二文学部卒。学生時代から6000冊以上の本を乱読。1993年株式会社 電通入社。24年間コピーライター・CMプランナーとして活動。
2016年退職、「青年失業家」と称し、インターネット上で執筆活動を開始。Webサイト「街角のクリエイティブ」に連載する映画評「田中泰延のエンタメ新党」が累計500万PV超の人気コラムになる。その他、奈良県、滋賀県、広島県、栃木県などの地方自治体と提携したPRコラム、写真メディア「SEIN」などで連載記事を執筆。映画・文学・哲学・音楽・写真など硬軟幅広いテーマの文章で読者の支持を得る。
2019年、ダイヤモンド社より初の著書『読みたいことを、書けばいい。人生が変わるシンプルな文章術』を刊行。2020年、出版社・ひろのぶと株式会社を創業。
Twitter: @hironobutnk
大阪生まれのコピーライターが「ツッコミはマウンティング」と断じる理由