「抜擢」とは未来志向で
期待をかけること

「抜擢」とは、「期待をかけること」です。

そこには正確性や確信は必要ありません。

ポテンシャルにかけること、それが「抜擢」です。

新卒採用も、そういう意味では「抜擢」と言えます。

はまだ社会人経験がなく、人材として花開くかどうかはわからない。

でも未来への投資として、採用しよう。

これはまさしく「抜擢」の考え方です。

「うちの会社にはいい人材がいない」
「今いるメンバーでなんとかするしかない」

このように悩む人事担当者や管理職はたくさんいます。

過去の実績や、今の能力だけで見てしまえば、そう言わざるをえない状況かもしれません。

ロジックだけで考えてしまうと、「抜擢」などしないほうが安全となってしまいます。

過去の実績はない、現時点での能力も足りない。

こんなふうに、「できない理由」はいくらでもあげられます。

しかし、「抜擢」とはあくまでも未来志向で、「期待をかけること」です。

言い換えれば、可能性にかけることです。

「今いる人材で」「今ある能力の総和で」とロジックで解釈する限り、組織の能力はそれ以上にはなりません。足し算の発想では組織の飛躍的な成長は望めないのです。

一方、期待というのは、今いる人材、今ある組織の能力を、掛け算で考えるというものです。

優秀な人材がいない、かつては優秀だと評価されていた人材が思うように伸びていない。

このように感じたときには、組織やチーム、人に対して「期待」していない、あるいは「期待」が不足しているのではないかと疑ってみましょう。

まずは期待をかける。

ここから「人が育つ」サイクルが動き出すのです。

※次回は、若手に「期待をかける」ことでメンバーとチームに起こる変化についてお伝えします。(次回は12月16日公開予定)

曽山哲人(そやま・てつひと)
株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO 曽山哲人氏

1974年神奈川県横浜市生まれ。上智大学文学部英文学科卒業。1998年伊勢丹に入社、紳士服部門配属とともに通販サイト立ち上げに参加。1999年、社員数が20人程度だったサイバーエージェントにインターネット広告の営業担当として入社し、後に営業部門統括に就任。2005年に人事本部設立とともに人事本部長に就任。2008年から取締役を6年務め、2014年より執行役員、2016年から取締役に再任。2020年より現職。著書は『強みを活かす』(PHPビジネス新書)、『サイバーエージェント流 成長するしかけ』(日本実業出版社)、『クリエイティブ人事』(光文社新書、共著)等。ビジネス系ユーチューバー「ソヤマン」として情報発信もしている。

2005年の人事本部長就任より10年で20以上の新しい人事制度や仕組みを導入、のべ3000人以上の採用に関わり、300人以上の管理職育成に携わる。毎年1000人の社員とリアルおよびリモートでの交流をおこない、10年で3500人以上の学生とマンツーマンで対話するなど、若手との接点も多い。