7人兄弟で土地を分割? 最善策は?

――税理士にとって「相続税」は、税金の知識だけでなく、法律の知識も求められる分野なのですね。

橘:そうなんです。「税理士だから、税金の知識だけ持っていればいいだろう」では済まないのが「相続税」という分野です。法律のことも知っておかなければならないし、手続のことも知っておかなければならない。そうでないと、クライアントに最善の提案ができなくなってしまうんですよ。

――たとえば、どのようなデメリットが起こりうるのですか?

橘:これは、私が駆け出しのころの失敗事例なのですが……「税金の知識しかないデメリット」としてわかりやすいので、あえて話しますね。

――ぜひお願いします!

橘:あるご家庭のお父様が亡くなったんです。お父様は不動産として大きな野球場を持っていて、その野球場を市に貸していました。お子さんは7人。7人兄弟みんなで、野球場の土地を7つに割って線を引き、それぞれを相続しようと決めました。そこで、私に相談にやってきたんです。

――すごく大変そうな気がしてきました、、、

橘:話を聞いた私は、「野球場の土地を7つに分けると言っても、現状では亡くなった人の名前の土地。その状態で線は引けないだろう」と思ってしまったんですね。そこで、一度、7人の共有で相続登記を入れてから線を引き、それを「共有物の分割」という手法をとって調整していこうと考えました。

――なるほど。

橘:結果からいえば、相続人全員の同意があれば、亡くなった人の名前の土地でも線を引くことはできるんです。後から勉強し直して知ったのですが、当時は知らなかった。そのため、司法書士に「共有登記を入れてください」とお願いし、そこから分割するのが最善だろうと考え、手続を進めてしまったんですね。

――当時の橘先生の知識では「最善」と思ってとった策が、改めて勉強し直してみたら「最善」ではなかったのですね。

橘:そういうことです。結果的に、故人名義の土地に線を引くよりも大きなコストがその家族にかかってしまいました。加えて、司法書士の手続も遅れてしまい、「分割された土地を売ろう」と考えていた7人兄弟の数人の売買契約が流れてしまって、大きなお叱りを受けることになりました。

――そんなことがあったのですね。

橘:登記簿上の1つの土地を複数の土地に分けて登記をする「分筆」は、司法書士や土地家屋調査士の領域です。でも税理士もその領域を勉強していないと、クライアントに対して最善の提案をすることができない。このときに痛感しました。