日本のコピーライティングの第一人者、神田昌典氏の25年に及ぶノウハウを集大成した『コピーライティング技術大全』の共著者・衣田順一氏は、大手鉄鋼メーカーの管理職だった。
衣田氏は脳性麻痺の子どもを抱えていたが、勤めていた会社が合併。閉塞感と先行きが見えない状況から衣田氏を救い出したのがコピーライティングだった。衣田氏は言う。「コピーライティングはプロのライターのためのものではなく、すべての人に役立つスキルだ」と。一般の人がコピーライティングをどのように活用できるのか、衣田氏に聞いた。
息子の介護中に起こった合併劇
記者:脳性麻痺のお子さんを抱えた状況で、ある日突然、会社が合併したというのは、とっても大変な気がしますが、実際のところどうでしたか?
衣田順一(以下、衣田):息子の介護と会社合併でいうと、会社合併のほうが影響は大きかったですね。特に勤めていた会社よりも規模が大きい会社との合併でしたから、人間関係構築や文化に慣れるという面で、どうしても時間が必要です。それまでは、フレックスタイムや福祉休暇などで勤務はかなり自由度がありました。新しい会社でも、もちろん制度自体はあるわけですが、実際問題として会社にいる時間は長くなりました。
記者:その当時は今と違って在宅勤務はなかったわけですよね?
衣田:制度自体はありましたが、かなり限定的でした。元々、息子が急に具合が悪くなり、予定されていた会議を欠席したり、日程変更せざるをえないこともあったりして、会社員でいることには限界を感じていました。
だから、「家でできる仕事」に就くしかないと思い、いろいろ探していました。
記者:たとえばどんな仕事ですか?
衣田:当時はマーケティングのことは何も知りませんでしたから、単に「自営業」という切り口で、洋菓子をつくって売るとか、整体師なら予約を自分でコントロールできるのではと考えました。
しかし、それまで何の経験もないのに、いきなり職業にできるわけもなく、あえなく断念しました
コピーライティングの「原理原則」と報酬体系
記者:断念した後、どうしたんですか?
衣田:何ヵ月もネットでひたすら調べていて、本当にたまたま、「セールスコピーライター」と呼ばれる仕事があるのを見つけました。コピーライターというと、糸井重里さんに代表されるキャッチコピーを書くイメージしかありませんでしたし、センスがモノをいうイメージでしたから、とてもできそうな気はしませんでした。
ところが、セールスコピーライティングには「原理原則」があり、それに基づいて書いていくものだということがわかりました。
記者:センスはまったく必要ないのですか?
衣田:センスがあるに越したことはないでしょうが、セールスコピーライティングは、いくつかの決まった「パターン」を組み合わせていけば、誰でも、ある程度はできるのです。
記者:それですぐに飛びついた?
衣田:いえ。正直、最初はよくある「うまい話」なのではと、疑いました。それでいろいろ調べてみたところ、コピーライティングはアメリカでは100年ほど前から使われていて、職業としても確立していることがわかりました。日本でも神田昌典さんが第一人者で、ベストセラー書籍も出ていて、怪しいものではないと判断しました。
それに加え、神田昌典さんの「PASONAの法則」(本書参照)を知ったとき、今までの経験がそのまま活かせると思ったのです。
私が勤めていた鉄鋼業というのは、設備も製品も巨大ですから、1人では何もできないわけです。社内・社外を問わず、いろんな関係者を動かすことが必要です。
そのためには、文章がポイントになります。会社員として書いてきた、企画書・提案書や依頼書などはすべて、「人を動かす文章」なのです。コピーライティングはまさに「人を動かす文章」の原理原則の塊なのです。
記者:原理原則、パターンがあるということですが、それを覚えるのは、かなり大変なのでは?
衣田:原理原則はあるのですが、実はそれほどたくさんあるわけではないのです。
覚えるべきことは非常に限られていて、弁護士や公認会計士はもちろん、簿記の資格より、はるかにラクです。それでいて、報酬も普通のライターより文字どおり桁違いです。たとえばブログ記事のライターなら、3000字書いて3000円くらいですから1字あたり1~2円程度。それに対して、セールスに特化したコピーライターは、1字あたりに換算すると17~25円程度。文字どおり「桁違い」です。セールスコピーだと1件15万~30万円なので、これくらいなら生活もできるかなと考えました。
コピーライティングの本質とは?
記者:衣田さんのような、プロのコピーライターではなく、一般の人にとっては、コピーライティングはどのように役立つのでしょうか?
衣田:コピーライターとして独立後、神田さんと一緒に仕事をするようになったのですが、そこで驚いたのは、プロのコピーライターを目指す人だけでなく、自分のビジネスのためにコピーライティングを学ぶ人が非常にたくさんいることでした。
それまでは、コピーライターはビジネスをやっている人からライティングを請け負って書くイメージがありましたから、ビジネスをやっている人が自ら学ぶケースは少ないと思っていました。
私は講師の立場で講座に参加するようになって、自分のビジネスのためにコピーライティングを学ぶ人がスキルアップしていく様子を見ていくうちに、コピーライティングは単にセールスのための文章を書くものではなく、自分の強み・価値を見つけ出し、それを人に伝えていく技術だと気づいたのです。
だから、コピーライティングはビジネスだけではなく、「人を動かす」ことが必要なすべての人にとって役立つスキルなのです。役立つというより、身につけておくべき必須スキルだと言えるでしょう。
<つづく>
脳性麻痺児の介護と会社合併という局面から衣田氏を救い出したコピーライティング。
このコピーライティングは一般の人にとっても必須スキルだという。私たちにとって、コピーライティングの何がどのように役立つのかを、次回聞いていく。
『コピーライティング技術大全』の活用法を解説したセミナー動画をご覧いただけます。
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