「サウナでととのう」とは<br />医学的にどういう状態なのか?

2020年の発売以降、サウナブームを牽引してきた『医者が教えるサウナの教科書』。著者は、がん研究のスペシャリストで慶應義塾大学医学部腫瘍センター特任助教の加藤容崇さん。サウナー(サウナ愛好者)たちが長年感じていた、「サウナに入ると頭がスッキリする」「雲の上にいるよう」「地球に愛撫されているみたい」など、感覚でしか表現できなかった「ととのう」という現象を、本書で科学的に紐解いたことは大きな反響を呼んだ。サウナーであり医師であり、そして日本サウナ学会の代表理事も務める加藤さんに「ととのう」の正体を聞いた。(取材・構成/森本裕美、撮影/疋田千里)

深いリラックス状態である「ととのう」を科学的に解明

――「ととのう」というのは、今までは感覚で表されることが多かったですけど、この本では科学的に説明されていますね。

加藤容崇(以下、加藤):そうですね。そもそも「ととのう」というのはサウナー用語のひとつで、簡単に言うと「とても気持ちがちよくて、心身共に快調に感じられる状態」なんですが、人によって表現の仕方は様々でした。

――先生はととのうと、どういう感じになるんですか?

加藤:僕は「ととのいイス」に座って目をつむると浮遊感を感じます。リラックスしているけど眠いわけではなく、むしろ晴明に意識は晴れています。そして通常は気付かない感覚に気付くことが多いです。サウナに入る前には気付かなかった匂いとか、換気扇の音、着替えのときのTシャツの肌触り、サウナ飯など、感覚が敏感になっているのを感じます。

ある人は「サウナを出たらアラモアナショッピングセンターの風」と言っていましたね。皮膚の感覚が変わって、まるでハワイの風みたいに感じるということですね。

――気持ちよさそうですね。そういう感覚的なものを科学的に解明するのは大変だったのでは?

加藤:大変でもないですよ。僕は2018年の秋からサウナにハマって、それから約1年間で、のべ300回以上サウナに入ったんですね。同時に、海外の論文を読みあさり、被験者を集め、時には自分の体でデータを取ったりして情報を収集しました。そうしたら、「ととのう」の正体がわかりました。もちろん「ととのうとは~」と書いてあるわけではないですよ。自分の体感と、神経の状態やアドレナリンの状態など様々な要素を調べていった結果、「ととのう」ことの正体が見えてきました。

――そうして、本にある「血中には興奮状態の時に出るアドレナリンが残っているのに、自律神経はリラックス状態の副交感神経優位になっている状態」に行きついたんですね。

加藤:はい。サウナ室で「熱い!」、水風呂で「寒い!」、外気浴で「ほっとする」という環境の変化にさらされることで、アドレナリンが残っているけどリラックスもしているという稀有な状態になるんです。これが「ととのう」の一側面です。

サウナに入ると自律神経が最大20歳レベルまで上がる

――サウナ→水風呂→外気浴の時に、血流や心拍数、血圧、自律神経などがそれぞれどのように変化するかが、表にまとまっていましたね。あれを見ると「ととのう」の仕組みがよくわかりました。

加藤:あの中で一番わかりやすい体の変化は、自律神経ですね。実は、サウナ好きは大体汗が出るのが早いんですね。それはなんでかと言うと、毎日のようにサウナに入っている人は自律神経の機能が高くて、体温調節がうまいからです。すぐに汗をかいて体に熱がこもらないので、基本的には深部体温はほとんど上がりません。反対に、あまりサウナに入らない人というのは、すぐに環境にアジャストできなくて、深部体温が上がるので、しんどく感じます。

――そうなんですね。でも、本の内容を見ると、深部体温が上がって、体が大きく反応することが、ととのうためには必要なんですよね?

加藤:はい。だから、実は今の僕はほとんど、ととのわないです。ふわ~っとした感覚は昔ほどはないですね。やっぱり、アドレナリンが体内にありつつも、相反する役割を持つ副交感神経が上がる。そのギャップがととのいを生むので。僕は自律神経の機能が高いんですよね、いつ計っても高いので。だから外的環境にスムーズに適応できるから、ギャップがあんまり生まれないんですよね。

――ととのうという感覚が昔ほどはないのに、先生が毎日サウナに入られる理由は何なんですか?

加藤:心身のパフォーマンスが上がるのを実感しているからです。サウナのおかげで、絶好調です。実は、自律神経の状態というのは、年齢に応じて低下していくんですね。で、それを見ると、実際は30代の人でも、サウナに入らなくて仕事終わりの場合は、自律神経の状態が50代~60代くらいのレベルまで落ちるんです。でも、サウナに入るとガーッと上がる。マックスで20歳くらいまで、すごい機能が上がるんですね。

――自律神経を自分で整えるのって難しいですよね。それはサウナだからこそできることなんですか?

加藤:そうですね。サウナは外的環境なので、別に自分でコントロールする必要がありません。だから、どんな人でも適切に行えば効果が得られます。そんなにお金もかからないし、テクニックもいらないし、才能もいりません。

脳の状態を調べると、ととのっている時は、瞑想をしている時と似ているんですよね。でも、瞑想はトレーニングが必須で、習熟度によって効果が異なることが報告されています。それに対してサウナは、ただ入るだけ。

熟練サウナーになって、自律神経の機能が高まると、たしかにととのいにくくはなります。でも、心身は絶好調になります。一方、初心者の場合は、ととのいを感じやすい。結局サウナは、誰にとってもメリットが大きいと思います。