長引くコロナ禍で都心部オフィスの空室率が上昇。ホテルや商業施設も厳しい状況が続いており、足元では供給制約や悪い円安論も台頭している。もっとも、厳しい環境のなかでも、コロナ終息を見据えて、投資家の不動産に対する注目度は高い。特集『総予測2022』の本稿では、強弱材料が交錯する2022年の不動産市況について分析した。(日本不動産研究所主席研究員、不動産エコノミスト 吉野 薫)
オフィス空室率が急速に上昇
リモートワーク定着も逆風
2021年の不動産市場を取り巻く実体経済の状況を振り返ると、20年よりは持ち直したが、その足取りはおぼつかないものであった。新型コロナウイルスの感染抑制が年後半以降までずれ込む中、ホテルや飲食店舗にとって厳しい状況が継続している。
オフィス賃貸市場の不振も続いている。20年後半以降、東京を中心にオフィスの空室率が急速に上昇しており、その上昇ペースは実体経済のもたつき具合と比べても足早である。各企業は平時の働き方としてリモートワークが一定程度定着することを見越しつつ、オフィス空間の再編・合理化を模索していると推測できる。
今後も感染再拡大によって対面型サービス産業に悪影響が及ぶ可能性は否定できない。また日本企業は供給制約や「悪い円安」の問題に直面しており、オフィスの床を積極的に拡大する地合いだとは言い難い。これらは22年の不動産市場を占う上で無視できない懸念材料であり、顕在化すれば不動産に対する実需の回復は一層後ろ倒しになろう。
もっとも、投資市場ではこれらの不動産に対する忌避感が募る様子はない。むしろ投資家はコロナ禍の終息を見据え、手控えていたホテルや店舗への投資に再度注目し始めている。オフィスに対する投資意欲も一段と高まっている。
次ページでは、日本の不動産価格が「底堅く推移する理由」を様々な視点から解説していこう。