新たな技術を開発する力のある日本企業は少なくないが、多くの日本企業はその技術を普及させていく能力に乏しい。その原因は日本企業の多様性の欠如にある。多様性の一面である、女性の経営トップ層に占める比率で企業を分類し、その収益力を見ると比率が高い企業ほど収益力が高い。企業だけでなく社会も含めて多様性を日本に根付かせていくことが必要だろう。(クレディ・スイス証券株式会社 プライベート・バンキング チーフ・インベストメント・オフィサー・ジャパン〈日本最高投資責任者〉 松本聡一郎)
5Gなど、進む生産性向上に役立つ技術開発
そのためのインフラ整備競争が激化
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、この2年の間世界経済にかつてない衝撃を与えた。感染症対策として政治が経済に介入するプロセスで、国によりアプローチの違いが際立つ形になった。権威主義と民主主義でのアプローチの違いは、すでに政治的に大きな意味を持ち始めている。パンデミックが収束した後、世界はどう変わっていくのか。
次の10年を考えたとき、経済は人口動態の変化つまり労働人口の減少がもたらすインパクトから大きな転換点を迎えることになるだろう。少子高齢化の進展により、アフリカを除く大半の国は人手不足によるインフレや成長抑制への圧力を強く感じていくことになる。
権威主義と民主主義といった政治的な価値観の対立は、グローバル化した世界で行われていた不足する労働力を補い合う関係を、今後は制限していくことになるだろう。このため、労働力不足は主に、新しい技術を発展させ活用し、生産性を向上させることで補う必要が出てくる。
価値観を軸とした競争関係は、政治がビジネスに関与を深めるなかで、厳しさを増していく。それは生産性向上のための新しい技術の開発および活用においても、例外ではない。近年、米国では中国の技術開発能力への警戒を隠さなくなっている。
国際関係研究で知られるハーバード・ケネディスクールのベルファーセンターが12月リリースしたレポート「The Great Tech Rivalry: China vs the U.S.」を読んでも、その警戒レベルの高さが理解できる。経済の生産性向上という視点から見ると、単に新しい技術を開発する能力(インベンション)だけではなく、新しい活用法を生み出し幅広く普及させていく能力(イノベーション)の高さが焦点になってくる。
米国で急成長したネットのプラットフォーマーと呼ばれる企業は、イノベーション能力の高さが際立っていた具体例だろう。ただ、そこには前提として、ネットの社会インフラが整備され、安価に利用できる環境が整備されたことが重要な意味を持っていた。
ITバブル時代、米国では通信ネットワークの整備競争が盛り上がり、急ピッチで全米に大容量ブロードバンドネットワークが普及した。バブル崩壊で破綻した企業からネットワークが安価で引き継がれたこと、インターネットを利用する社会インフラ整備が一気に進んだことで、GAFAといわれるようなプラットフォーマー企業が大きく発展するきっかけを生んだと考えている。
現在、生産性向上に役立つような新しい技術開発が急ピッチで進んでいる。前述のハーバード・ケネディスクールのレポートでは、人工知能、5G、量子情報科学、半導体、バイオテクノロジー、グリーンエネルギー、マイクロデバイスに注目し、分析をしている。
これらの技術は、経済や社会の仕組みに破壊的と言ってもいい変化をもたらすだろう。ただ、これらの技術を活用できる社会・経済インフラシステムが構築されていることが前提条件で、国家間での激しいインフラ整備競争はすでに始まっている。