円安Photo:PIXTA

オミクロン株の拡大懸念、米国の早期利上げによる景気減速懸念などから足元はドル安円高が進んでいる。しかし、2022年以降を見渡せば、円安が進む公算が大きい。その円安は日本経済にとって悪い円安であり、日本銀行が金融を引き締めても止めることはできなさそうだ。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)

オミクロン株 米早期利上げによる
景気減速懸念で足元はドル安円高

 11月下旬に、約5年ぶりに115円50銭を上回ったドル円だったが、新型コロナウイルスの変異株であるオミクロン株が南アフリカで発見されたことをきっかけに米国長期金利が低下したことなどもあり、一時112円台まで下落し、その後もやや上値の重い展開が続いている。

 2021年後半以降のドル円の急速な上昇については、主に米国長期金利と原油価格の双方の上昇によってもたらされた公算が高い。日米金利差の拡大が円安要因との考えが一般的ななか、実際の円売りフローは対外証券投資という形で生じるが、対外証券投資に影響を及ぼすのは米国の短期金利ではなく長期金利だ。

 この米国の長期金利が上昇する傍ら、需給逼迫(ひっぱく)を背景とした原油高が本邦貿易収支悪化への思惑を強める形で円安圧力となったのだが、実際に円売りを主導していたのは本邦輸入企業ではなくヘッジファンド等の投機筋である。

 オミクロン株への懸念から原油の需要減が意識され、原油価格が下落し、他方、米国長期金利が低下するなかで投機筋の円買い戻しが進み、ドル円が112円台まで下落したものと推察される。

 変異株の弱毒化がうたわれるなか、株価や原油価格、そして米国長期金利もリバウンド傾向になりつつあるが、FRB(米連邦準備制度理事会)の早過ぎる利上げが景気減速につながるとの懸念も根強い。

 また、中国の不動産関連投資の伸び悩みも続いており、引き続きドル円にもダウンサイドリスクが残ると考えている。年内から22年初にかけては111円程度までの下落もあり得ると考えているが、ただ、中期的な円安トレンドは既に始まっており、22年後半から23年にかけては、再び「悪い円安」が市場のテーマとなりそうだ。