メーカー(製造業)には自動車、電機、食品……などさまざまな業種がありますが、いずれも「商品をつくって顧客に届ける」という点は共通です。さらに、いつ、どの商品が、どこで、いくつ売れるのか、といった情報を予測する「需要予測」は、どの業種でも行われています。この需要予測には必要な4つの情報とは何でしょうか? メーカーを目指す人ならぜひ知っておきたい基本について、書籍『全図解メーカーの仕事 需要予測・商品開発・在庫管理・生産管理・ロジスティクスのしくみ』から紹介していきます。
「需要予測」に特化した日本語の書籍は限られているものの、海外ではDemand forecastingやDemand Planningというよばれ方で浸透していて、日本よりもはるかに多くの研究が行われてきました。
需要予測を行うためには、大きく四つの適切な情報が必要だと言われています。①事業計画、②販売計画、③マーケティング計画、④過去の販売データです。
もちろん、需要予測に必要な情報はこれだけではなく、業界特有の情報もあります(図2-1)。
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ビジネスにおける需要予測で重要なのは、数学的に高度な予測モデルを構築することではありません。その目的は、事業の成長を支援し、コストを抑制して利益率を高めることです。
ビジネスにおいて需要予測の対象となるのは、独立需要とよばれるもののみです。対になる概念は従属需要であり、例えば商品自体の需要が独立需要、それを構成する原材料の需要が従属需要となります。従属需要は独立需要から一意に計算することができ、予測する必要はありません。
また、需要予測は多くの場合、対象の粒度が大きいほど、精度がよくなる傾向があります。例えば口紅であれば、1色ごとの需要予測よりも、「クレ・ド・ポー ボーテ」というブランドの口紅全色合計といった大きな単位のほうが簡単です。なぜなら需要にはノイズというランダムな変動が含まれ、予測の粒度が大きければ、中で打ち消し合うからです。よって、予測精度は必ず粒度とセットで解釈する必要があります。
生産のためには色、サイズ別といったSKU(Stock Keeping Unit:商品を管理する最小単位)別の需要予測が必要であり、大きな粒度で予測した場合は、なんらかのロジックでそれを分けることも必要になります。
そして需要予測は、ターゲットとする時期が先になるほど、精度が悪化する傾向があります。これは、未来になるほど環境変化が発生する確率が上がるからです。
予測モデルのロジック
需要予測の手法は、過去の販売データのない新商品と、発売後の売上動向がわかっている既存商品とで大きく異なります。新商品の需要予測については、別途解説します。既存商品の需要予測は、ニーズの変化を予測することといえます。
過去の販売データがある商品の需要は、時系列分析によって予測をすることが一般的であり、基本的には精度が最も高くなる傾向があります。時系列分析とは、時間的に連続するデータを、統計学などを使って特徴を把握する手法です。時系列分析は過去からの研究知見が膨大にあり、かなり高度な数学的な内容を含むため、その詳細については本書のスコープ外としますが、興味のある方は参考文献などを調べてみてください。
実際のビジネスで需要予測を行う際には、高度な数学の知識は不要です。なぜなら時系列モデルは、一般的なシステムに実装されているからです。需要予測を担うビジネスパーソンは、予測モデルのロジックを理解しておく必要はありますが、それをゼロから設計できなくても大丈夫です。需要予測システムを導入していない企業においても、エクセルで高度な時系列モデルを組む有用性はあまりありません
高度な予測モデルが必要なのであれば、システムを導入するほうが時間と継続性の観点からメリットが大きいです。また、高度なモデルを組まなくても、例えば前年比(本年実績/前年実績)やFORECAST関数を使えば、エクセルでも十分な精度で需要予測ができる場合も多くあります。ただし、特にSKU数が多い場合は予測システムを使うほうが効率的です。