メーカー(製造業)には自動車、電機、食品……などさまざまな業種がありますが、いずれも「商品をつくって顧客に届ける」という点は共通です。では、魅力的な商品というのは、どのように生み出されるのでしょうか。とてもひと言では言い表せませんが、必須といわれる10のスキルと、それを支援してくれるツールがさまざま開発されています。メーカーを目指す人がぜひ知っておきたい予備知識について、書籍『全図解メーカーの仕事 需要予測・商品開発・在庫管理・生産管理・ロジスティクスのしくみ』から紹介していきます。

魅力的な商品は機械的・自動的なプロセスでは生み出せません。スキルを持った商品開発担当者が揃ったチームが試行錯誤することで生まれます。これには10種のスキルが有効であるといわれており(図4-4)、それらは各開発ステージにおけるさまざまなアクティビティで通用します。

スキルは本を読んでも身につきませんが、どんなスキルがなぜ必要かを把握したうえで、実務の中で磨いていくことがプロフェッショナルになる最短の道です。いずれも実務経験を通じて培われていくものがほとんどですが、それらを支援するさまざまなツールも知られています。

メーカーに就職したい人なら知っておきたい「魅力的な商品を生むための10のスキル」とは?図4-4 各種スキルを支援するツール
拡大画像表示

より詳しく知りたい方は、ツール名で検索したり、参考文献を調べてみてください。

◆スキル1.段取り力(Planning)
 商品開発プロジェクトの目的、使えるリソース、スケジュールなどを整理し、把握しておく力。スタート時に段取りを組むことはそう難しくないが、リソースやスケジュールなどはプロジェクトが進行するにつれ変化する。そのため、臨機応変に段取りを調整する必要があり、これをアジャイルに行う力は実践の中で身についていくものである。

◆スキル2.情報発見力(Discovering)
 顧客のニーズを含め、既存の知見やアイデアを見つける力。このスキルに優れた開発担当者は、既存のアイデアに乗るのがうまい。実際、メーカービジネスにおける商品開発では、他社のヒット商品を分析し、それに独自の改良を加えた商品が発売されている例は少なくない。オリジナリティがないといった意見もあるが、顧客のニーズに確実に対応しているアイデアを参考にすることは、商品開発の成功確率を上げる一つの有効な方法でもある。

◆スキル3.アイデアアレンジ力(Creating)
 新しいアイデアを生み出す力。ただし、人はゼロからアイデアを生むことはほとんどない。イノベーションが離れた領域にある既存の知の融合であるように、アイデアもいかに新しい組み合わせを思いつくことができるかが重要である。

◆スキル4.アイデア表現力(Representing)
 商品をグラフィカルに表現する力。これによって自分のアイデアをチームメンバーなどへ伝え、議論できるようにする。スケッチやCADなどを使った表現がある。

◆スキル5.モデリング力(Modeling)
 商品のパフォーマンスを予測するモデルを構築する力。これはAIによって大きく変わりつつある。製薬業界では、薬の副作用などもモデルで事前に予測するといった試みがある。

◆スキル6.試作品設計力(Prototyping)
 商品が現実にどんなものかを、試作品を作ることで検討する。試作品は開発チーム内の議論を促進するため、これを短期間で作る力には大きな価値がある。

◆スキル7.実験分析力(Experimenting)
 商品の効果、機能を実験によって検証する力。具体的には、実験デザイン、実行、統計的な分析と結果の解釈などのスキル。実験には、単なる試用から、コストをかけた大規模なものまで幅広くある。

◆スキル8.情報評価力(Evaluating)
 定量的、定性的なさまざまな情報を総合的に踏まえ、商品を評価する力。直感的な評価、定性的な評価、定量的な評価がある。ここでは顧客が望むものなのか、現実に生産できるものなのか、という二つの軸を忘れないこと。

◆スキル9.決断力(Deciding)
 その時点で使える情報のみで、行動を決める力。情報はいつまで待っても、完全には揃わない。ビジネスにおいては、不十分な情報での決断が重要になるが、それは勢いで決めてしまうこととは異なる。商品設計のどの要素が、顧客のニーズに大きな影響を与えるかを正確に見抜く力が必要である。

◆スキル10.情報共有力(Conveying)
 開発した商品に関する情報を、さまざまな関係者に広く共有する力。関係者にはその商品について詳しくない方もいるので、商品の価値を正しく伝えるとともに、対応できないニーズについても正直に伝えることが重要である。