「退職」が悪いのではなく
「びっくり退職」が問題

―― 「自分の中長期ビジョン」を上司と語ることはとても大事だと感じますが、曽山さんもおっしゃる通り「転職が絡むかもしれない話題」を現職の上司とする難しさはあると思います。そこはどう捉えていますか。

 私も人事なので「転職するか、しないか」の面談は何回もしてきました。

 じつは、そのときのポイントは「残って欲しいか、辞めてもいいか」ではないんです。

 一番は「その人の未来がどこに向いているか」で「辞める、辞めない」は二番目です。

 なので、「未来において何がしたいのか」「どんな思いがあるのか」もしくは「今、どんな困ったことがあるのか」を聞いていくことがものすごく大事です。

 未来の話を聞いて「未来を共有する」ことができれば、もしかしたら、サイバーエージェントでも実現できることがあるかもしれないですし、今現在はやっていなくても、サイバーエージェントとして新たな分野を切り開いていくきっかけになるかもしれません。

 もちろん、その一方で「本人の未来」はサイバーエージェントでは実現が難しくて、他の業界、他の会社へ行くことが必要なケースもあるでしょう。

 いずれにしても、未来をしっかり握ることができ、お互いに納得できるのであれば、辞めること自体は決して問題ではありません。

 退職が悪いのではなく、上司や人事にとって「びっくり退職」が問題なのだと、私はよく言っています。

今、若い人の「組織への所属意識」は<br />本当に下がっているのか?

―― 退職が悪いのではなく「びっくり退職」が問題。わかりやすいですね。

 本当にそうなんですよ。

 辞めること自体が悪いのではなく「えっ、辞めるの?」「マジで?」がダメなんです。

 だからこそ、普段の面談、「1on1」で中長期の話をしておくことがとても大事になってきます。

―― ちょっと踏み込んだ質問ですが、そうは言っても曽山さんとして「この人にはぜひ残って欲しい」「辞めないで欲しい」という場面もあるんじゃないですか。

 あります。あります。

―― そういうときはどうしているんですか?

 最後は「曽山が本音で思っていること」を言って終われば、それでいいと思っています。会社の意見ではなく、私自身の考えです。

 最終的な意思決定は当然本人がするものですし、私たちは選択肢を増やすことしかできません。

 じっくり話を聴いて、考えられる選択肢を示して、そして最後には「曽山の思い」を伝える。

 それをどう受け止めてくれるかは本人次第。

 強制的に残ってもらったとしても「強制された」という思いしか残らないですから。やっぱりそこはエモなんです。

 でも一方で、未来の話をしっかりして、お互いの思いを共有して、選択肢を増やして考えた挙げ句に残ってくれた人は、やる気が半端なく上がりますね。

 感覚的には10倍くらいになっていると思います。

―― 曽山さんが「かけた期待」がその人のやる気を後押ししているんですね。

 本当にそうです。

 まさに、私は期待をかけるんです。「私はこうして欲しい」という思いを伝えて、期待をかける。

 本気の期待をかけて、それに納得してくれた人は本当に力を発揮してくれますよ。結局、そういう対話が一番大事なのだと思っています。

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今、若い人の「組織への所属意識」は<br />本当に下がっているのか?

曽山哲人(そやま・てつひと)
株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO
1974年神奈川県横浜市生まれ。上智大学文学部英文学科卒業。1998年伊勢丹に入社、紳士服部門配属とともに通販サイト立ち上げに参加。1999年、社員数が20人程度だったサイバーエージェントにインターネット広告の営業担当として入社し、後に営業部門統括に就任。2005年に人事本部設立とともに人事本部長に就任。2008年から取締役を6年務め、2014年より執行役員、2016年から取締役に再任。2020年より現職。著書は『強みを活かす』(PHPビジネス新書)、『サイバーエージェント流 成長するしかけ』(日本実業出版社)、『クリエイティブ人事』(光文社新書、共著)等。ビジネス系ユーチューバー「ソヤマン」として情報発信もしている。
2005年の人事本部長就任より10年で20以上の新しい人事制度や仕組みを導入、のべ3000人以上の採用に関わり、300人以上の管理職育成に携わる。毎年1000人の社員とリアルおよびリモートでの交流をおこない、10年で3500人以上の学生とマンツーマンで対話するなど、若手との接点も多い。

今、若い人の「組織への所属意識」は<br />本当に下がっているのか?