「投資の神様」「オマハの賢人」と呼ばれ、投資だけで個人資産10兆8000億円を築いたウォーレン・バフェット。バフェットの強さの秘密は何か。その謎を解く1冊の本がある。ロバート・G・ハグストロームが、投資で成功するために必要な哲学と思考を解き明かした『バフェットのマネーマインド』(小野一郎訳)だ。日本版の刊行を記念して、その一部を紹介しよう。

バフェットはなぜ古典的な「バリュー投資」から脱却できたのか?Photo: Dennis - Adobe Stock

シーズキャンディーズ買収で
バフェットが気づいたこと

 1970年代初頭、バークシャー・ハザウェイはダイバーシファイド・リテイリングという会社を所有していたが、この会社はブルーチップスタンプという会社を所有していた。バフェットのビジネスパートナーとなるチャーリー・マンガーも、自分の投資パートナーシップでこの会社を所有していた。

 この会社のビジネスは、スーパーマーケットやガソリンスタンドにトレーディングスタンプを提供し、お客さんに渡して集めてもらい、あとで商品と交換するというものだった。保険会社にとって請求されない保険のように、使われないままのスタンプは会社にとってのバッファーとして機能し、同社は貯蓄貸付機関や新聞社、西海岸の高級箱入りチョコレートの製造・販売会社であるキャンディー会社「シーズキャンディーズ」の一部株式など、ほかの事業を買収することができた。

 1972年、ブルーチップスタンプは、シーズキャンディーズの全事業を創業者一族から購入することができた。提示された価格は、貸借対照表上の資産1000万ドルを含めて、4000万ドルだった。シーズキャンディーズの有形固定資産は800万ドルだけで、年間の税引前利益は400万ドルだった。

 マンガーは妥当な取引だと思ったが、バフェットは納得していなかった。彼は、提示価格が有形固定資産の3倍上乗せされていて、バリュー投資の始祖ベンジャミン・グレアムなら間違いなく反対する価格だと指摘した。

 バフェットは2500万ドルを提示したが、それでもまだ払いすぎではないかと考えていた。

 あとで振り返れば、払いすぎではなかったことがわかる。実は、シーズキャンディーズはバークシャーの歴史の中で、最も高い経済的リターンをもたらした事業の一つとして名を残すことになると思われるからだ。