『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』では、組織文化の変革方法についてまとめました。本連載では組織文化に造詣の深いキーパーソンと中竹竜二さんが対談。ともに学び合うオンライングループ「ウィニングカルチャーラボ」で実施したイベントの内容をまとめました。今回のゲストは、伝説のカウンセラーとして、経営者・ビジネスリーダーから子どもまで、幅広い人々の自己変容に寄り添う松木正さん。ネイティブ・アメリカンの儀式にも詳しい松木さんは、第一線で活躍するリーダーたちをどのように自分らしく導いているのでしょうか。(聞き手/中竹竜二、構成/添田愛沙)
■中竹さんと松木さんの対談動画はこちら>「中竹竜二×ネイティブ・アメリカンに詳しい松木正さん対談!「組織文化とあるがままの力」」
■松木さんとの対談を受けたVoicy配信>「インディアンが信じるオオカミの力とは?」、「インディアンが大切にしている生き方とは?」
中竹竜二さん(以下、中竹) 松木さんのように、日本人でネイティブ・アメリカンの知恵や「大切なこと」を自分のものにしている方はほとんどいらっしゃらないそうですね。最初に、松木さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
松木正さん(以下、松木) 僕は20代の頃はYMCAで野外教育に携わっていました。
当時、野外教育や環境教育の本場はアメリカでした。自然の中で自分の感覚を研ぎすませて、自然や周りの人々とのつながりを感じる体験を通して、何か新しい発見をしていく。そんなプログラムが主流だったんです。
キャンプファイヤーやオリエンテーリングなどのレクリエーションとして、キャンプではなく、そういうプログラムの内容をもっと深く学びたくて、YMCAを退職して、アメリカで環境教育のインストラクターになりました。
アメリカの環境教育の根底には、ネイティブ・アメリカンの知恵があります。
自然と人がどんな関わりの中で生きるのか。自分の体と心とどう関わるのが「いい感じ」なのか。環境教育のアクティビティの中にも、ネイティブ・アメリカンのセレモニーをベースにしたものが少なくない。それで、だんだんと「本物を知りたい」と思うようになったんです。
中竹 プログラム化されたものではないものを知りたい、と思うようになったということですね。
松木 1989年に初めてアメリカ合衆国サウスダコタ州、シャイアンリバーリザべーションに入りました。インディアン・ラコタ(スー)族が暮らす居留区です。
中竹 外から、しかも日本人が居留区に入っていくのは大変だったんじゃないですか?
松木 特にこどもたちと関わる仕事をしていたのですが、やはり大変でしたね。「お試し行動」はありました。どちらが強いか、どちらが上か、そういうことを決めようとするんですね。もともと僕は格闘技をやっていたので、それで乗り切った部分もありました。
中竹 共通言語は「力」なんですね。
松木 ただ、それだけではありません。それまでの僕は、「強い自分」を目指すことが自分のアイデンティティだと思っていたんです。泣くことは恥ずかしいことであり、「男は泣くものじゃない」「弱音を吐くものじゃない」という地域文化の中で育ってきた。
それが、ラコタの「スウェットロッジ・セレモニー」(イニィピー)に参加したことをきっかけに大きく変わりました。
「スウェットロッジ・セレモニー」は、ラコタに伝わる聖なる7つの儀式のうちの一つです。真っ暗闇のドーム状のテントの中で、焼いた石に水をかけてサウナのような状態にして。
熱気に包まれた中で汗がバーッと噴き出て、「考える」ことはできなくなる。僕も、彼らも、みんな「あるがままの自分」でそこにいる。すると、涙がダーッと出てきたんです。
人って、辛さや悲しさを素直に表現して、自分自身の深いところで魂とつながった時に涙が出るんです。涙を流したとき、自分が今まで隅に押しやってきた部分、光を当ててこなかった部分に光を当てることになったんです。
そのスウェットロッジの中で、昔写真で見た戦士のような大男が、「ウワーン、ウオーン」と泣いたんです。そうすると、真っ暗闇の中で、顔は見えないけどほかの仲間が「Ho(ホー)!」「Ho(ホー)!」と声を返してくれる。「Ho(ホー)!」とは「そうなんだね」と、受け止めてくれる言葉なんです。
中竹 承認するんですね。
松木 その場で同じ空気を吸って、ただただ、寄り添うようにそばにいる。それだけなのに、自分が受け入れられていると感じて勇気づけられる。「Ho(ホー)!」という声が自然に出てくるんです。これは、自分にとってすごく大きい体験でした。
中竹 「自分が今まで光を当ててこなかった部分」というお話がありましたが、今、自分が知っている自分しか知りたくないとか、今の思考の中だけにいたいとか、そういう人もいますよね。
松木 最近はビジネスパーソンや経営者の方が、僕のところによくいらっしゃるんです。みなさん、社会的にとても成功している方々です。でも、どこかに不安がある。「もっと違う自分があるんじゃないか」と思っていたりして。
「スウェットロッジ・セレモニー」に参加すると分かるんですけど、小さなドームの中で焼け石に水をかけると、いっぺんに100度を超える温度になる。特に日ごろ、頭を使って解釈することしかやっていない人は、どうしたらこの状態を回避できるか、必死で考える。でも、「思考」の中、つまり過去のデータの中に答えはないんですよ。
すると、頭がパニックになってしまうんです。人って、そんな時にすごい行動をするんです。真っ暗闇で、狭くて、灼熱のサウナの中で、急に走り出す人もいるし、穴を掘って外に逃げようとする人もいる。
その中でも「Ho(ホー)!」と言い合って、ただただ、その人と一緒にいる。そうすると少しずつ、「思考の世界の中には答えはないんだ」ということを受け入れ始めます。それを受け入れると、その後は驚くほど元気でいられるようになっていくんです。今まで表現したことのない自分(キャラクター)を表現し始めたりするんです。「無邪気なこども」を表現し始めたり、「アグレッシブなエネルギー」を表現し始めたり……。
すべての人々に、その人自身の「生命の本質(エッセンス)」があって、自分自身になろうとしていく。その方向性を、セレモニーを通じて自分で体験していくんですね。
中竹 それぞれのファミリーや集団単位でこっちの方向に行くぞ、ということではなく、一人一人が「個性化」していくことを自分自身で掴みにいくような感じでしょうか?
松木 そうですね。個性化していく過程の中で生命の働きと、与えられるギフトが連動した時に、より一層その人の個性が花開いていきます。
(2022年2月4日公開記事に続く)