『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』では、組織文化の変革方法についてまとめました。本連載では組織文化に造詣の深いキーパーソンと中竹竜二さんが対談。ともに学び合うオンライングループ「ウィニングカルチャーラボ」で実施したイベントの内容をまとめました。今回のゲストは、レオス・キャピタルワークスの創業者の藤野英人さん。日本のアクティブ投資信託として最大級のファンド「ひふみ投信シリーズ」を手掛けています。投資の世界と組織文化。そこには意外な共通点がありました。(聞き手/中竹竜二、構成/添田愛沙)

■藤野さんとの対談1回目>「「好きな仲間と楽しく働く」を実現するために必要な、たった一つのこと」
■藤野さんとの対談を受けたVoicy配信>「ヒトを成長させる「ゆかし」とは?」「根拠のない自信、ありますか?」
■藤野さんとの対談を受けたnote記事>「人を成長させる「ゆかし」とは?」「根拠のない自信、ありますか?」

人間関係は一瞬で好転させるために必要な、たった一つの力『ウィニングカルチャー』著者の中竹竜二さん(左)とレオス・キャピタルワークス社長の藤野英人さん(右)

中竹竜二さん(以下、中竹) 私は藤野さんの、その学ぶ姿勢にはいつも感心しているんですけど、それはどこから来ているんですか。

藤野英人さん(以下、藤野) 僕は、子どもの頃から縦社会が嫌いで、フラットな信頼関係がどこまでも水平的に広がっていく価値観が好きだったんです。だからインターネットが登場した時に、「これだ!」と思いました。インターネットというものが、縦のものを横に壊しにいっているように見えたんです。

 古語に「ゆかし」という言葉があります。見たい、聞きたい、知りたいという気持ちすべてを表します。

 若い頃、仕事で中小企業の社長さんと会って話す機会がありました。話を聞いていると、みなさんアクが強いし、創業者だから本当に山あり谷ありの人生でおもしろい。嘘もつくし、誇張もするけれど、それも含めて、人間の奥深さや醜さ、美しさに魅了されました。

 もともと、物事の成り立ちがどうなっているんだろう、背景はどうなっているんだろう、と深く知りたい好奇心が強かったこともあるんだと思います。人生のエッセンスを語る強烈なおじさんたちに、毎日1時間半か2時間ずつ、6年半さらされた結果、自分の中のとにかく知りたいという「ゆかし精神」が爆発したんです。

中竹 「ゆかし」って好奇心の源泉のようなものでしょうか。

藤野 そうですね。誰かといい関係性を保っている時って、自分が相手に対して「ゆかし」の気持ちを持っているんですよ。

 人は、自分に興味を持っている人を好きになる。たとえ厳しい質問をしても、あなたのことをもっと知りたいというベースがあれば、それは上下関係ではない人間関係になるので、瞬時に打ち解けることがあります。

中竹 正対して向き合っている感じですね。

藤野 投資って、お金を持っている「投資する側」と「投資される側」という、根本的で絶望的な上下関係があるんです。でも、僕にとっては、すべての創業者や経営者は、興味や観察、尊敬の対象です。おもしろくない人は一人もいないので、学ぶことがたくさんあります。どんな会社にも、どんな経営者にも、それぞれのストーリーと魂があります。

 同時に、好奇心も育てられます。知っていることが増えるとおもしろいですから。知れば知るほど、自分が無知であることが分かってくる。知れば知るほど、何を知らないかが分かるようになる。知らない領域が増えると、もっと知らない領域を埋めたくなる。好奇心とは、「ゆかし」が爆発する仕組みになっているんです。

中竹 それが本当の学びかもしれませんね。普段、自分が考えないような日常にあるものを、命をかけて探求している人のストーリーはおもしろいし、関心を持ちますよね。

藤野 今はタビオという会社になりましたが、靴下屋さんの越智社長は、靴下をかむそうです。靴下に「一緒に寝ようね」と声をかけて寝ていたりもする。そういう人がつくる靴下に勝てるわけがありません。

人間関係は一瞬で好転させるために必要な、たった一つの力Photo: Adobe Stock

中竹 藤野さんがおっしゃった「人に関心を寄せる」ということは、私がコーチのコーチングをする時に一番伝えているポイントなんです。

 選手や学習者がどんな人の指導を一番受け入れるのか。一番いい関係性は、「相手が自分に興味を持ってくれているか」ということです。今までのコーチは、戦略や知識をインプットしたり、尊敬されるために実績をつくったりという形で頑張ってきました。けれど、その選手のことを真剣に知ろうとする方が、圧倒的に大事だったんです。

藤野 女性から話を聞くと、モテない男性の共通点は「自分の話ばかりする」ことだそうです。女性の関心を引きたいのは分かりますが、女性は「私のことを知ってほしい」「私に関心を持ってほしい」と思っている。だから、俺様的な自分の話ばかりするような人はなかなかモテない、と。これは、仕事でも友人関係でも、すべて同じじゃないかな。

中竹 でも、人に関心を寄せるって、頭では分かってても、ある程度、経験がないと難しいかもしれませんね。人に関心を持つためにやった方がいいことはありますか?

藤野 まずは共通点を探すことです。ペットや趣味、生まれた場所……。人って同じだと思った瞬間に心を開くので、例えば犬好きの人が犬の話をしただけで、距離がぐっと縮まっていきます。互いの共通の関心を見つけるのは、すごく大事だと思います。

 ただ、相手に関心を持つということは、相手のことを認めようという気持ちを持つことだから、自分に自信がないとできない可能性があります。

中竹 ある程度、自己肯定感が高くないとできないかもしれませんね。藤野さんはこれを仕事の中で長年、徹底的にやり抜いてこられたんですね。

藤野 自分の人生で一番誇れることは何かというと、仕事ではなく、ピアノサークルをつくったことなんです。僕は、日本で最大規模のピアノサークルを主催しているんですが、そのサークル内で、40組80人が結婚したんですよ。

中竹 そのカルチャーがすごい!

藤野 みんなピアノが大好きで、年齢が高い人が上というのではなく、ピアノを素敵に弾ける人が偉い、という価値観のコミュニティです。

 そういうフラットな関係性の中でピアノや音楽の話をしていると、相手のいいところを発見しやすいんです。結果として、それだけ多くの人たちが生涯のパートナーを見つけることができた。

 ヨーロッパに「3組の結婚を援助することができたら天国に行ける」という言い伝えがあるそうです。その意味では、僕は、80組もつなげたから天国へのフリーパスを持っているかもしれません(笑)
(2022年2月19日公開記事に続く)