ロジカルに考えて定義を見直す

個別企業の株価は、中長期的にはその企業の業績に連動します。

そして企業業績は、景気にリンクする場合もありますが、しない場合もあります。このように考えれば、「景気が悪化すれば株価は下がる」は必ずしも正しくないと言えそうです。

そうであるならば、なぜまことしやかに「円高になると景気が悪化して株価が下がる」と言われるのでしょうか?

日本の株式市場の動向を示す代表的な指数は「日経平均株価」です。

日本経済新聞社が、東証一部上場企業のうち225銘柄を選定して算出しています。

その構成銘柄を見ると、輸出企業が多いことがわかります。これらの企業の業績は円高になれば悪化しますから、日経平均株価は下がる傾向が高いわけです。

つまり、実体経済を見れば円高が景気に及ぼす影響はほとんどないのに、日経平均株価の構成銘柄に輸出企業が多いがゆえに「株価が下がる」のです。

なお、「株価が下がる」ことによって景気が悪化する面はあります。

たとえば株式市場で資産を運用している資産家たちは、株価が下がれば高額消費を控えるようになるでしょう。

また、マスメディアで「株価が下がった」という報道が続けば、個人消費者が財布のひもを締めることにつながります。トヨタ自動車や本田技研工業の業績が悪くなれば自動車部品産業がその影響を受けて業績が悪化し、そこで働く人たちの消費が落ち込むという食物連鎖的な動きもあります。

おそらく、こういったことが積み重なって「円高になると景気が悪化する」「景気と株価は連動する」「円高になると当然、景気が悪くなって株価も下がる」というイメージが定着しているのでしょう。

しかしこれらは「為替と景気と株価はリンクしている」という思い込みによるもので、ロジカルに考えれば必ずしもそうとは言えない面もあるわけです。

大事なのは、「自分が知っていると思いこんでいるだけで、実は知らないこと」に気づき、自分の頭で考えて「定義を見直す」ことです。

(本原稿は、伊藤潤一著『東大金融研究会のお金超講義 超一流の投資のプロが東大生に教えている「お金の教養と人生戦略」』から一部抜粋・改変したものです)