混迷ウクライナ#11トヨタロシア工場は大統領のお膝元にある。ロシアは裏切り者の外資工場を国有化する方向で、撤退は難しい Photo:Bloomberg/gettyimages

ロシア事業からの撤退圧力の高まり、地政学リスク、自動車市場の冷え込み――。世界一の自動車メーカーであるトヨタ自動車にとって、ロシアによるウクライナ侵攻は大きな試練になりそうだ。だが一方で、長期的に見ればトヨタが漁夫の利を得る驚愕シナリオも浮上している。『混迷ウクライナ』の#11では、ウクライナ有事がもたらすトヨタら日系自動車メーカーへの影響を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

トヨタ・ロシア工場稼働停止の理由は
人道的問題ではなく「供給問題」

 世界一の自動車メーカーが“暴力的な国家”における事業をやめる決断をしないのはなぜなのか――。

 欧米の投資家の間で、トヨタ自動車にロシア事業からの“撤退”を求める声が高まっている。

 ウクライナ有事から間もなくして、トヨタはロシア工場の稼働と完成車の輸入を速やかに停止している。ただし、事業停止を伝えるリリースには「供給問題により」という枕ことばが添えられた。

 つまり事業停止の理由は、人道的見地ではなく部材のサプライチェーン(供給網)問題にあるということだ。物理的なハードルを前面に出すことで、有事に対する経営の判断をはぐらかしているようにも映る。

 ここに、投資家はかみ付いた。ESG(環境・社会・企業統治)経営の観点から、トヨタが軍事行為を容認する姿勢はおかしいというものだ。

 欧米企業の間では、人道的問題を理由にロシア事業からの撤退を決断する動きが加速している。米エクソンモービルや英シェルがロシア・サハリンの石油・天然ガスプロジェクトからの撤退を決めたのもそうだ。

 しかし、トヨタには事業の撤退・縮小を簡単には決められない複雑な事情がある。

 次ページではトヨタが抱えている複雑な事情を説明すると共に、ウクライナ有事がトヨタに利する結果となる「驚愕シナリオ」を提示する。