IT・戦略会計・人材育成分野のコンサルタントとしてビジネスの第一線で活躍してきた著者の小池康仁氏は、41歳で阿闍梨(あじゃり、密教で修業した僧侶)への道に入り、現在は経営者・経営アドバイザリーとしても活動しながら、自身の体験をもとにした帝王学と陰陽五行論を全国で説いて回っています。
本書『「自分」の生き方――運命を変える東洋哲理2500年の教え』は、師と若きビジネスパーソンの会話形式というユニークな構成を取りながら、古来より口伝されてきた陰陽五行論の神髄を平易に伝えてくれます。
同書の抜粋構成による好評連載第3回では、生き方(在り方)を変化させて運命をも変える法則について紹介します。
自信を持とうなんてしなくていい
自分は高卒だから出世するのは難しい、人生なんてつまらない、自信も持てないし、生きる価値を感じられない、なぜ生きているのだろう――。
人生をそんなふうに感じたことはありますか?
「もっと自分に自信を持ちなさい」
そんな事を言われたことはありませんか?
しかし、自信は本当に必要でしょうか。人は自信を持とうとすればするほど苦しくなります。それはなぜかというと、自信は日々の積み重ねによりにじみ出てくるもので、本人が意識的に努力して身につける類のものではないからです。
確かに人と比べると自分に足りないものばかりが見えてきて、人と比べて自信がない、運が悪い、道が開けない、不公平だ、などと挙げればきりがありません。しかし、それらは幻想なのです。
生まれ落ちたときから身体の大きな子もいれば小さな子もいる、親が裕福な子もいれば、貧乏な子もいる、覚えが早い子もいれば、遅い子もいる。生まれた場所や時代だって違うのが当たりまえ。だからこそ不平等は存在していると受け入れたほうが、世界の見え方も変わってきます。
青年:理屈はまったくその通りなのですが……。やっぱりお金はあったほうがいいし、きれいな女性と知り合って結婚もしたい。自分が持っていないものを手に入れている人たちを見ると、羨ましくて仕方がありません。
康仁:そうですね。お金はないよりあったほうがよいでしょうし、奥さんは美人のほうがよいのかもしれません。
ですが、お金持ちの人が全員幸せかというとそうでもありません。またお金がないから不幸かというと、そうとも限らない。美人な奥さんを持つがゆえの悩みも出てきます。何が良くて何が悪いのか、何が幸せで何が不幸せなのか、そうした良し悪しや幸・不幸はこの世には存在しないのです。
どの角度から眺めるかによって見える世界が異なるというだけで、真実は人の数だけあり、幸・不幸も人の数だけある、と考えてはいかがでしょうか。
身体や命は自分のものだと
思うから苦しみが起きる
人には誰しも苦しみがあります。病気は嫌だ、貧乏は嫌だ、人から大切にされないのは頭にくる、もっと私を愛してほしいと。
これらの苦しみを相対化し、苦しみや恐れをなくすヒントが、古代インドの僧の龍樹(ナーガルジュナ)が唱えた「空思想」にあります。
すべての存在には実体がなく、「空」、つまり流動し続けている虚の存在だというのが「空思想」です。
「私の身体や私の命は自分のものだ」と思うからこそ、苦しみが起きる。だけれども、「これは私の肉体ではない、私の所有物ではない」と腑に落ちた瞬間、恐れや痛みはなくなります。私が存在すると他人も存在し、私と他人の間で争いが起きるが、私が存在しなければ他人も存在しない。だから争い自体が存在しない。他者が存在しなくなると、比較する行為がなくなり、すべてが絶対的なものとなる――。
すぐにこの考えを会得するのは難しいですが、社会通念とは違うその空思想的な物の見方を身につけることができれば、人と比べてしまう相対性の世界から抜け出し、心安らかな絶対性の世界に移行することができるでしょう。
青年:空思想、はじめて聞きました。
康仁:人類がこの空思想に行き着いたとき、国境はなくなって戦争が消滅し、差別や貧困も消えてなくなるでしょうね。
一挙に変わるのは難しいですが、あなたが社会通念とは違うその空思想的な物の見方を身につけることができれば、人と比べてしまう相対性の世界から抜け出し、心安らかな絶対性の世界に移行することができるはずです。