地理とは「地球上の理(ことわり)」である。この指針で現代世界の疑問を解き明かし、6万部を突破した『経済は地理から学べ!』。著者は、代々木ゼミナールで「東大地理」を教える実力派、宮路秀作氏だ。日本地理学会企画専門委員会の委員として、大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」にも参加し、精力的に活動している。2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定し、地理にスポットライトが当たっている。本記事は、昨今のウクライナ情勢を受け、ロシアとウクライナの関係にスポットを当てた宮路氏の寄稿だ。

穀物大国ロシアが「絶対に手放したくない拠点」Photo: Adobe Stock

穀物大国ロシアの重要拠点

 現在ロシアは、アメリカ合衆国を抜いて世界最大の小麦輸出国となっています。そのロシアが輸出拠点として利用しているのが黒海沿岸のノボロシースク港です。

 黒海沿岸はつまりカフカス山脈北側の黒土地帯で生産された小麦が持ち込まれます。ここからボスポラス海峡とダーダネルス海峡を通過して地中海へ出ます。両海峡を利用するのは、これはロシアだけでなく、ルーマニアやブルガリア、そしてウクライナも同様です。

 実際問題として、ロシアの北側は北極海であり海氷の影響で輸送は不安定です。ロシア東部の極東地方ではほとんど小麦の栽培が見られません。バルト海沿岸まで小麦を陸上輸送するのはコストが高くつくでしょうし、そもそも冬は凍港となって使い物になりません。つまり、ロシアが小麦を輸出する拠点とできるのは黒海やカスピ海くらいしかないといえます。

 ロシアは、国土のほとんどが北緯50度を超えて寒冷で、また降水量が少ないため、基本的には天水に依存した穀物栽培が行われています。そのため小麦だけでなく、大麦やトウモロコシの輸出も盛んです。近年は大麦やトウモロコシの作柄があまり良くなかったのか輸出量は減少したため、例年以上に小麦輸出の存在感が増していて、世界最大の小麦輸出国となっています。

 特に2014年のクリミア危機以降続いているルーブル安の影響は大きいようです。

 ウクライナとロシアの輸出相手先をみると、そのほとんどが北アフリカや中東諸国となっていて、さらに南アジアも重要な輸出先となっています。特に、両国とも最大の小麦の輸出先はエジプトです。