コロナ禍で売上が急増したものがある。マスクや消毒剤などの衛生用品、ウェブカメラのようなテレワーク関連商品などは、必要にせまられているからわかりやすい。ちょっと意外なのは子ども向けの歴史本が売上急増したことだ。
ダイヤモンド社の『東大教授がおしえる やばい日本史』は、文部科学省から教育委員会へ休校要請をした2020年2月28日の売上が前日の2倍、29日は4倍になった。
また、子ども向けの歴史マンガ『ねこねこ日本史』(実業之日本社)はEテレでアニメ化されており、もともと一定の人気があった。しかし、休校要請があった2020年2~4月の売上は前年比20倍。どちらの書籍も、コロナ禍が続く現在まで売れ行き好調だという。
なぜコロナ禍で歴史本が売れるのか? この現象を関係者に考察してもらった。
(取材・構成:小川晶子)
「楽しい」のに学校の勉強にもなる
コロナ禍で児童書の売上は全体期に伸びた。休校になって子どもが家にいるとなると、親としてはゲームやYouTubeばかりになるのが心配だ。少しでも知識が身につくものをという思いが児童書売り場に向かわせたというのは想像に難くない。
しかし、科学エンタメ本や教養系の本はここまで売上急増しなかった。『やばい日本史』の売れ方は異常だったという。ダイヤモンド社の編集者は「歴史の本がここまで選ばれるのは意外でした。学校の教科にあるので、他の児童書より勉強に直接結びつくのかもしれません。それだけ勉強要素を確保したいという気持ちがあったのではないでしょうか」と語る。
教科の勉強につながるだけではない。『やばい日本史』と『ねこねこ日本史』に共通しているのは「笑える」ことだ。
『ねこねこ日本史』は「もし日本史の偉人たちが猫だったら」というコンセプトで、聖徳太子や織田信長、坂本龍馬がかわいい猫として描かれながら、ギャグ満載のコミック。最初は大人向けの歴史ギャグマンガだったのだが、キャラクターのかわいさで子どもたちに人気が出て、総ルビの「ジュニア版」を出すことになった経緯がある。歴史好きの大人も笑えるし、歴史を知らない子どもも笑ってしまう。これをきっかけに歴史好きになったという感想が多く届いている。
『やばい日本史』は、歴史上の人物の「やばい」エピソードを紹介した本。ちょっとシュールで笑えるマンガとイラストも多用されており、ギャグ満載だ。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にも登場する、平氏を滅ぼし鎌倉幕府を作ったというヒーロー源頼朝が、実は妻の政子の尻にしかれまくりだった……といったことが面白おかしく描かれている。
思いきり外で遊ぶことができず、これからどうなるのかという不安が強いなかで「笑って明るい気持ちになれる本を読んでほしい」という気持ちもあったのではないだろうか。
「歴史」は祖父母との共通の話題になる
子ども向けの歴史本は「孫へのプレゼント」にもなった。ダイヤモンド社の宣伝プロモーション担当曰く、「学校が休校になっても親は仕事に行かなければならず、おじいちゃん・おばあちゃんに面倒を見てもらったというお家もあります。お孫さんと一緒に楽しめるものとして、歴史は選ばれやすかったのではないでしょうか。」
『やばい日本史』の編集担当者も「『この本は孫のために買ったのだが、あげる前に自分で読んだ』と書かれた読者ハガキが多く見受けられました。60代以上の30~40%はお孫さんへのプレゼントとして購入したという印象です。贈り物を選ぶ前にどういうものか知りたい、ちゃんと見ておきたいという方は多いのでしょう。歴史なら、本を読んだお孫さんと感想を言い合うこともできます」と語る。
危機的状況が、歴史に目を向けさせる
これまで経験したことない危機に遭遇すると、歴史に目を向けやすくなるという面もあるかもしれない。
我々にとって新型コロナウィルスのパンデミックは、経験したことのない危機だ。しかし、歴史を振り返ってみれば、人間は幾度も感染症と闘い、乗り越えてきた。コロナ禍では、世界で何が起きているか、どのような対策がされているかといった「世界への関心」が高まったと同時に、過去はどうだったのかという「歴史への関心」も高まったのではないか。『感染症の世界史』(角川ソフィア文庫)が10万部のベストセラーとなったほか、感染症に関する歴史の本が多く増刷となった。
コロナ禍が終わってからも、歴史に学ぶことそのものの重要性や価値は変わらないはずだ。ビスマルクの名言に「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」というものがある。子どもたちには、歴史を楽しく学んで、アフターコロナの明るい未来を描いていってほしいと願う。