ダイエット、禁煙、節約、勉強──。何度も挑戦し、そのたびに挫折し、自分はなんて意志が弱いのだろうと自信をなくした経験はないだろうか?
目標を達成するには、「良い習慣」が不可欠だ。そして多くの人は、習慣を身につけるのに必要なのは「意志の力」だと勘違いしている。だが、科学で裏付けされた行動をすれば、習慣が最短で手に入り、やめたい悪習も断ち切ることができる。
その方法を説いた、アダム・グラント、ロバート・チャルディーニら一流の研究者が絶賛する1冊、『やり抜く自分に変わる超習慣力 悪習を断ち切り、良い習慣を身につける科学的メソッド』(ウェンディ・ウッド著、花塚恵訳)より一部を公開する。
肥満の人が座る席はどこ?
この本を通じて覚えておいてもらいたいことをひとつあげるとしたら、みなさんには「摩擦」を覚えておいてほしい。単純で直感的に理解できるものだし、驚くようなことを成し遂げたいときに活用できる。
生活の一部となっている状況が生み出す力は、習慣の科学がもたらす知見に匹敵すると言っていい。結果は絶えず実証されている。
中華料理のビュッフェを対象にした調査では、常連客で肥満の人たちの約42パーセントがビュッフェテーブルに面した席に座り、つねに食べ物が目に入る状態でいた。標準体重でテーブルに面した席に座ったのは27パーセントだけで、ほとんどの人がビュッフェが背になる席や側面になる席に座った。痩せ型の人に至っては、38パーセントがビュッフェに反応しづらくしていた。ボックス席に座ったのだ。おかわりを取りに行こうとすれば、ボックス席の通路側に座った人に立ってもらうことになる。
肥満の常連客でボックス席に座ったのは、その半分にも満たない16パーセントだけだった。肥満の客のほとんどは一人掛けの椅子に座った。それならすぐに立って食べ物を取りに行ける。また、痩せ型の人たちは、座ったときにナプキンを膝にかける人が多かったが(50パーセント)、肥満の人でナプキンをかけていたのは24パーセントだった。ナプキンは、立ち上がって食べ物を取りに行く障害としてはずいぶん小さい。
とはいえ、すでに述べたようにたとえ小さな変化であっても違いは起こせる。もっとも大きな違いを生んだのは、標準体型の人の71パーセントが、料理を皿にとる前にビュッフェに並ぶ料理全体を見て回ったことだ。それにより、すべての料理を順に皿にとるのではなく、食べたいものだけを皿に選んでとるようになった。肥満の人で先に全体を見て回ったのは、3分の1にすぎなかった。ほとんどの人が、どんな料理があるかを最初に確かめることなく、すぐさま目についた料理を皿にとり始めた。食べたいものを選ぶことはほとんどしていない。
この調査から、食べ放題の場であっても、食べる行動を推進する力を支配し、その行動を抑圧する力をかけることは可能であるとわかる。行動を促す合図の排除は不可能でも、標準体型の人たちは、合図の前に身をさらすことを自ら制限した。そうすることで、彼らは何を食べるかの決断を下す必要がなくなり、ふだんの食事のときと同じように食べることができたのだ。
外的な力を借りないとなれば、残る選択肢は、習慣形成の科学や現実をすべて投げ捨てて、自分の命運を支配するのは意志の力だけだと思い込み続けることになってしまう。
自分が身を置く環境で生じる心理的な作用を無視し、自らの決断と意志だけをプレッシャーに感じながら、誰もが己の力だけで行動すると信じ続けるのはかまわない。だがそれでは、つまずいて計画に遅れが生じれば、自分が嫌でたまらなくなるだろう。反対にうまくいっているときは、苦労している人を見て心の奥底で優越感にひたるかもしれない。そういう生き方をしたいと思えるだろうか? いや、そういう生き方に身に覚えはないだろうか? それよりも、もっといい生き方が別にある。
【本記事は『やり抜く自分に変わる超習慣力 悪習を断ち切り、良い習慣を身につける科学的メソッド』(ウェンディ・ウッド著、花塚恵訳)を抜粋、編集して掲載しています】