「世界一面白くてお金になる経済講座」を上梓した南祐貴(セカニチ)氏にとって、レオス・キャピタルワークス代表取締役会長兼社長CIOの藤野英人氏は、「長期投資の魅力を教えてくれた恩人」なのだという。南氏は藤野氏の唱える長期投資について学び、実践し、情報を発信することで今日の地位を築いた。南氏は出版の報告も兼ねて、東京丸の内のレオス・キャピタルワークスへお邪魔した。やや緊張した面持ちの南氏の前へ、リラックスした表情の藤野氏が現れ、和やかな対談が始まった。今回はその後編をお送りする。(構成/ダイヤモンド社・亀井史夫 撮影/高須力)
学校のSDGs教育に期待している
南祐貴(以下、南) 今年の4月から高校の家庭科で、資産形成の授業が始まったじゃないですか。どう思いますか?
藤野英人(以下、藤野) あれはね、すごくいいこと。めちゃくちゃいいこと。
南 金融庁の資料を見たんですけど。結構クオリティ高くて、頑張ってやってるんだなって、びっくりしました。
藤野 学校で教えることの何がいいかっていうと、学校の先生が勉強すること。学校の先生が勉強して、それで教えていくことがすごく大事。でも実はね、もっと期待していて、もっと爆発的になるなと思っていることがあるんですよ。
南 なんですか?
藤野 すでに学校教育で始まっているもので。
南 すでに……。なんだろう?
藤野 みんな過小評価しているけど、僕は全国の小学校、中学校のいろんな人たちと話していて、子どもたちが激的に変わっている、もっと変わると思うんですよ。それは、ある教育のおかげなんです。
南 「ある教育」。なんだろう、なんだろう?
藤野 意外なものです。言われると、あっと思う。
南 あ、プログラミングですか。
藤野 プログラミングも変えると思う。英語教育やプログラミングはいいと思うんだよね。でも違う。答えはSDGsです。
南 そうなんですか! もう組み込まれてるんですね?
藤野 SDGsの教育って、結構、熱心にやっているんです。小学生ぐらいから、中学・高校と。
南 知らなかった。それは社会の授業で?
藤野 そういう授業があるんです。SDGsそのものを道徳的なところで学ぶ。自分で何をやりたいのかっていうのを、いっぱいある中から選んで自分ができることを夏休みに書いて出す。それをみんなで発表し合って、そういう考え方、そういう取り組みがあるねっていうのを、みんなで議論する。
南 小中学生の授業で組み込まれているのはそれ、知らなかったです。SDGsが何の頭文字なのか知らない大人もたくさん居ますからね(持続可能な開発目標=Sustainable Development Goals 世界を変えるための17の目標)。
藤野 自主的な感じで投げかけてくれる。いままでの「答え出しなさい」じゃないのが、子どもたちがイキイキと取り組む理由ですね。いままでの日本の学校教育って、標準的なモデルを覚えてもらったり、できるようにするっていうことだった。国語とか算数とか理科とか社会を覚えて、できるようにすると。よい社会人になるためには、ここにあるものをちゃんと覚えてできるようにして、理解しなさいということだった。でもSDGs教育だけは、世界の課題の中から、あなたたちが主体的になって何ができますかっていう問いかけなんだよね。日本の教育の中で非常に少ない機会。何がいいかっていうと、あなたは何ができますか? という問いかけなんで。そうすると、自分は何をしたい、何が得意という話になる。たとえば環境のことを科学的にやるとか、もしくは、男女差別とか、英語を使って世界の矛盾を解決したいとか。自分で重いものを持ち上げて、それで苦しんでいる人を助けたいとか。いろいろあるじゃないですか。自分の個性を考えて、自分のできることで社会に貢献することを考えるのは、究極の起業家教育になる。これは政治でもあって、投資にもつながるわけです。いままでは、主体的な「私」を起点とした教育があまりなかったから、日本で投資家が少ないのとまったく同じ理由で、政治家になる人が少ない。だから政治が非常に混迷している。投資もなかなかできない。消費者としての目線はどっちかっていうと、デフレで安く買うところにだけ厳しい。
南 そうですね、いまの現状は。日本人は投資家・起業家としての目線が弱いから「安ければ良い」という貧乏マインドになってしまう。そして巡り巡って自分の賃金も下がってしまい、悪いデフレスパイラルに陥っていた。最後は自分に跳ね返ってきますからね。
藤野 消費者としてどう参加しながら、よい社会・未来をつくっていくかという意識が、ちょっと弱い。それがSDGs教育によって、目線がだいぶ変わってきた。投資をするとか政治に関わるとかいうことについても、自分が世界を変え得る存在になるのが前提になっている。そうすると、中学、高校、大学とかの起業のビジネスプランって結構若い子たちにもあるわけで。その発想や内容もとてもいいんです。
南 若い感性があるから。SNSでも現役大学生は高いクオリティで発信する人も多いです。
藤野 感性もあるんだけど、視点ですね。要するに、自分たちが社会を変え得る存在だと思っている人たちと、そういうことはできないと思い込んでいるチームの差がある。いまの子たちは、自分たちが社会を変え得る存在だっていう前提の教育が少し始まったところにいる。もちろん、いままでの「部品としていい部品になりなさい」と、小さく収まって角が立たずに、よい部品になることが人生を一番効率的にすごす方法だっていうような教育も、依然として残っている。でも、そうじゃない。社会設計そのものを、自分たちで変えるという意思のある人たちが、北海道から沖縄まで同時多発的に、それも1年1年確実に増えていくのは、すごいインパクトがある。あと4年とか5年とか経ってくると、高校出て社会人になってくる人もいるし、大学出て社会人になってくる人も出てくると、それが続いてくるうちに、人材の厚みになる。そうすると日本の投資とか起業とか政治が、激変するというふうに最近思っているんです。それに、とても期待しています。
南 その現状を僕は知りませんでした。「自分は社会にどんな価値を残せるのか?」と小学生から考える習慣がついている若者が世の中で活躍していくのですね。
藤野 僕の予言でいうと、あと5年ぐらい経ったら、日本の地方政治は激変する。
南 立候補する人が増える?
藤野 そう。一つの理由は後期高齢者の人たちがいま、地方議会で主力勢力なわけです。でも、あと5年とか10年経ったら、引退していくわけです。そうすると、定数が空くんだけど、空いたところを誰が埋めに行くのかっていうと、意外に若い人がSDGsの延長で、僕はこれをやりたいっていう人たちが、地方で出てくる可能性が高い。地方の中で800万円から1500万円ぐらいの年収が保証されているから。そこそこおもしろいし、そこそこやりがいがある。かつ、何かできるかもしれないっていうところもあるから、町議会とか、村議会とか、市会議員とかに、結構20代の子たちが一気に増えるでしょう
南 そうですね。若い人の立候補が増えれば、世間の注目度も上がって、20-30代の投票率も上がってくる。
藤野 投票率も上がる。若い人の政策が出てくる、議会が活性化する。もう少しいうと、国会議員もたぶん活性化してくる。より若い人目線のアイデアが出てくるということになるし。あと、大谷翔平さんや藤井聡太さんみたいな、ああいうグレイトな人が生まれやすい社会背景がある。たぶん地方議会に、ミニ藤井聡太とか、ミニ大谷翔平みたいな人たちが現れているでしょう。男女ともにすっきりした感じで、真っ直ぐな感じのいい人たちで、結構シニアのおじいさんとかおばあさんも虜にするような人が出てきて、応援したいっていうムードが出てくるから、激変すると思うんだよね。
1966年富山県生まれ。投資家、ファンドマネージャー。レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役会長兼社長・最高投資責任者(CIO)。早稲田大学法学部卒。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス株式会社を創業。株式投資信託「ひふみ」シリーズの最高投資責任者。一般社団法人投資信託協会理事。投資教育にも注力しており、東京理科大学上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、叡啓大学客員教授も務める。主な著書に『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)、『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『ゲコノミクス』(日本経済新聞出版)などがある。