米長期金利と米国株が同時低下、ピークアウトした利回り「2.5%割れ」の可能性Photo:PIXTA

3%を超えていた米国の長期金利の指標である10年国債利回りはピークアウトした。それと歩調を合わせるように米国株も下落し始めた。インフレも峠を越す兆候が見える。株と長期金利の同時低下の背景を解説する。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)

4月の米CPI上昇率は
前月より低下

 米国10年債利回りは5月9日の欧州時間に3.2%にワンタッチした後、ピークアウトした。

 FOMC(米連邦公開市場委員会)のメンバーから、引き続き3.0%を超えるレベルまでの利上げを求める声があがるなかで、5月11日以降はその3.0%台に乗ることもほとんどなくなったのだが、米国10年債利回り低下のきっかけとなったのは、その11日に公表された4月の米CPI(消費者物価指数)であった。

 4月の米CPIは市場で前年比8.1%程度の上昇と予想されていたところ、同8.3%となり、予想を上回るインフレとなっている。

 雇用統計ですでに高い賃金の伸びが確認され、人件費負担が増えたサービス業において着々と価格転嫁が進んでいることや、20年から21年にかけての住宅市場の過熱に遅行する形での家賃の高い伸びも示されている、本来であれば米国債の利回りを上昇させ得る統計結果であったと言える。

 ただ、市場参加者が注目したのは、3月に前年比8.5%であったCPIが同8.3%と低下した点である。つまり、前年比ベースのCPIの伸び率は今年初めてピークアウトした格好となった。まだまだ高インフレである点に相違はなかったが、「止まらないインフレ」に脅える必要はなくなったと考える市場参加者が増え始めた。

 インフレが止まらないと考えた場合、市場参加者はインフレに強い商品を保有することで「インフレヘッジ」を行うが、確定利付きの現金資産である債券がインフレに滅法弱い商品である一方、金や銅、原油などのコモディティはインフレに連動して価格が上昇しやすい。

 これまで、コモディティ価格が上昇するなかでインフレもまた加速してきたが、インフレ期待が高い局面ではコモディティ価格の上昇とインフレがスパイラル的に進むようなケースが多く、22年以降の物価動向は正にこれに当たると考えられる。

 債券はインフレによって価値が目減りするが、インフレに強い債券も存在し、それが物価上昇率そのものをリターンとする物価連動国債である。米国では、“Treasury Inflation-Protected Securities”通称TIPSとして流通しているが、インフレが強く意識され始めた21年以降、TIPSへの資金流入が増え続けたことが話題ともなった。

 ひるがえって、4月の米CPIの公表を受けた市場参加者は「止まらないインフレ」への懸念を弱め始めたが、このような思惑はTIPSへの買い圧力もまた弱めた格好だ。今後の米国のCPIを考えれば、家賃の伸びなどが寄与して引き続き2%の物価目標を上回る水準の上昇率が観測される可能性が高いものの、その伸び率も徐々に鈍化する可能性が高い。

 インフレのピークが見え始めた状況下で市場では何が起きているのか。その背景と理由を次ページから解説する。