初対面の人と会話が続かない、なぜか気まずい空気が流れてしまう……。そんな会話やコミュニケーションの悩みを持つ人にぜひ読んでもらいたいのが、6月に刊行された『おもろい話し方 ~芸人だけが知っているウケる会話の法則』だ。発売後即重版、Amazonランキングでも1位(ビジネス交渉・心理学)を獲得と、大きな話題を呼んでいる。著者の芝山大補氏は、元芸人でネタ作家。これまで芸人300組以上のネタ制作に携わってきた。現在はその経験を活かし、ビジネスパーソンから一般の方まで幅広い層に「コミュニケーションに活きる笑いのスキル」を教えるなど、活動の場を広げている。
そんな芝山氏のノウハウを凝縮した初の著書『おもろい話し方』には、型破りな、けれども再現性の高い技術が満載だ。「初対面でも会話が続く人がやっていること」「相手の心に10倍響く”感想”の伝え方」「好かれるリアクションの極意」など、明日からすぐに使える技術の数々は、これまでどんな「話し方」本を読んでもうまくいかなかった、という苦手意識の強い人にこそぴったりの一冊に仕上がっている。今回は、本書の発売を記念して特別インタビューを実施。この記事では、「職場の人間関係をうまくいかせるための雑談の極意」について、芝山氏にとことん語ってもらった。(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)
小言を「言いやすいやつ」にならないよう
ユーモアで武装せよ
──『おもろい話し方』で芝山さんが書かれていたコミュニケーション術、日常生活で活用できる場面がたくさんありそうだなと思いました。個人的にはとくに、職場の人間関係で余計な悩みを抱かないために、苦手な人をうまくかわせるようになりたいなと。
芝山大補(以下、芝山):そうですね。プライベートならいいですが、仕事関係だとどうしても、「あの人、苦手だから話したくない」といちいち避けるわけにはいきませんからね。
──些細なことで小言を言ってくる先輩や、飲み会で反応に困ることを言ってくる上司など、どう対処すればいいか、困っている人も多いと思います。いい対処法があれば教えてください。
芝山:ああ、これは、すごく多くの人が抱いている悩みだと思います。「やめてください」と真面目に言い返したいけれど、そうするとかえってきつく当たられてしまうかもしれない。かといって、いつも言い返さず、やんわりと受け答えするだけでは余計にストレスが溜まる一方。
──そうそう、そうなんです。だからこそ、言い返しづらい。でも黙っていると「こいつには何を言ってもいい」と思われて、もっと嫌な目にあうかもしれないじゃないですか。
ネタ作家
1986年兵庫県生まれ。2007年、NSC大阪校に入学。2009年、2011年には、それぞれ別のコンビでキングオブコント準決勝進出。2015年にはフワちゃんと「SF世紀宇宙の子」を結成。同コンビを解散後は、ネタ作家に転身。賞レースのファイナリスト、セミファイナリストなど、芸人300組以上のネタ制作に携わる。2019年からは、「笑いの力で人間関係に悩む人を救いたい」という想いから、お笑いの技術を言語化して伝える「笑わせ学」に取り組む。講義やイベントでの指導、YouTubeやTikTokでの活動を通じて、多くの人に芸人の技術を伝えている。発売即重版となった初の著書『おもろい話し方』が絶賛発売中。
芝山:もちろん度を越したパワハラの場合は、会社に相談するとか、「受け流す」以外の手段を考えたほうがいいと思うんですけど。悩むのは、相談するほどじゃない、微妙なラインのものの場合ですよね。そういうときは「ユーモアで武装して心を守る」というスタンスをおすすめしたいなと。
──なるほど。ユーモアで武装して心を守る、ですか。
芝山:はい。お笑いとは、一種の「護身術」だと思うんです。僕は、「心」をまもるで「護心術」とも言えるな、と思っているんですけど。人から嫌なこと、傷つくようなことを言われたときに言い返せないと、心の中にずっと、モヤモヤした気持ちが残るじゃないですか。「あのときああ言われて悔しかった、言い返せばよかった」って、しばらく経ったあとも何度も思い出しちゃったりする。
たとえば、「お前太ったな」ってバカにされて、ただ言われっぱなしのままだと「なんであんなこと言われなあかんかったんや」って、そのあと何時間も考え続けちゃったりしますよね。上下関係がある相手ならなおさら、何も反撃できなくて悔しい思いをすることも多いと思うんですよ。
──おっしゃるとおりだと思います。
芝山:そういうときに、ユーモアを織り交ぜて伝えられれば、「笑いに変えられた、うまく返してやれた」という気持ちでスッキリしますし、自分の立場を悪くすることもなく、やんわり釘を刺すこともできる。また、「こいつ、おもろいな」と思ってもらえたら、相手の対応が変わることもあると思うんです。
もちろん、どんなときだってなんでもかんでも笑いに変えられるわけじゃないですけど、そういう自分の心を守る術の一つとして、「笑いのスキル」を身に付けておくのはすごくいいんじゃないかと思うんです。
「笑い」を使いこなせば、
空気を悪くせずに「心」を守れる
──たとえば、ねちねちと指摘してくるような「お局様」的な先輩の対応に困っている、という場合、どのように対処したらいいでしょうか?
芝山:お局様的な先輩かあ。具体的にはどんな感じですか?
──たとえば、ちょっとしたことで「いつも気が利かないんだから!」と嫌味を言われる……などでしょうか。毎日、誰かの悪口や噂話を聞かされる、というのもありそうです。それに乗っかって悪口を言いたくはないけれど、言わないと今度は自分が悪口のターゲットにされるから怖くて同調してしまう……というケースもあるかなと。
芝山:なるほど。たとえば悪口の片棒を担がされそうになったときは、「相手の意表をつく」ことで笑いに昇華するのはどうでしょう。たとえば、「〇〇さんって、すごくガサツだよね。ドアを閉めるときもバタンッ!!ってものすごい音がするし」みたいな、どうでもいい悪口を共有して同意を求めてきたとしますよね。
そういうときには「強く肯定する」と、意表をついて笑いが取れるのでおすすめです。本にも書いたのですが、「あえて否定せずにその事実を認める。なんなら強く肯定する」というテクニックです。具体的には、「ああ、たしかに〇〇さん、ドア閉めるときむっちゃうるさいですよね! この前、ちょっとビル傾いてましたもん」みたいに、過剰に言う。
──(笑)。
芝山:「もう私なんてびっくりしすぎて、揺れたとき、机の下にもぐりましたもん」とか、異常なほど過剰な方向に持っていく。すると、「そこまでじゃないわ(笑)」「そんなわけないやろ!」みたいに笑いが生まれ、場が和みやすくなりますよね。そこで同調して一緒に悪口を言っちゃうと、自分の中にも罪悪感が残りますし、精神衛生上よくありませんからね。ユーモアを交えて言うことで、空気を悪くせずにうまくかわせると思います。
──たしかに、そういう返し方をされると、場も盛り上がるし、やんわりと同調しない意思も伝えられそうですね。
芝山:そういう人ほど、コミュニケーションが苦手な、真面目な人なのかもしれません。真正面から「やめてください」「悪口はやめましょうよ」と否定の言葉をかけてしまうと、相手のメンツをつぶして余計に関係性を悪化させることにもなりかねませんから、ユーモアを交えて心を守れるといいと思います。
【第4回へ続く】
【大好評連載】
第1回 【気まずい沈黙が一瞬でなくなる!】「会話上手」になれるたった1つの習慣
第2回 「初対面から打ち解けられる人」が“こっそり”やっていること