スタートアップ不毛の地だった欧州で、世界的に音楽ストリーミングサービスを提供するスポティファイ(Spotify)など大型スタートアップを輩出できるようになった背景に、スタートアップ・エコシステムの変革がある。では、そうした変革が、2000年代初期に世界で一気に起こったのはなぜなのか。数々のユニコーンに投資しシリコンバレーで躍進する日系VC創業者が、「急成長企業を見いだす科学的手法」をまとめた新刊書籍『スタートアップ投資のセオリー 米国のベンチャー・キャピタリストは何を見ているのか』より、その一部を紹介していく。

スタートアップのエコシステムの変革が2000年以降に世界各国で一気に巻き起こった3つの理由とは?変革の背景にあるのは?(Photo: Adobe Stock)

 前回、欧州を例に紹介したようなスタートアップエコシステムの変革が2000年以降に世界各国で一気に起こったのは、なぜなのでしょうか。筆者は大きく3つの要因があると考えています。

1.ビジネスの構造変化

スタートアップのエコシステムの変革が2000年以降に世界各国で一気に巻き起こった3つの理由とは?中村幸一郎(なかむら・こういちろう)
Sozo Venturesファウンダー/マネージング ディレクター
大学在学中、日本のヤフー創業に孫泰蔵氏とともに関わる。新卒で入社した三菱商事では通信キャリアや投資の事業に従事し、インキュベーション・ファンドの事業などを担当した。米国のベンチャー・キャピタリスト育成機関であるカウフマン・フェローズ・プログラムを2009年に首席で修了(ジェフティモンズ賞受賞)。同年にSozo Venturesを創業した。ベンチャー・キャピタリストのグローバル・ランキングであるマイダス・リスト100の2021年版に日本人として初めてランクインし(72位)、2022年はさらに順位を上げた。シカゴ大学起業家教育センター(Polsky Center for Entrepreneurship and Innovation)のアドバイザー(Council Member)。早稲田大学法学部卒、シカゴ大学MBA修了。著書『スタートアップ投資のセオリー 米国のベンチャー・キャピタリストは何を見ているのか』を2022年6月上梓した。

 1つ目に挙げられるのは、スタートアップが手がけるビジネスの構造変化です。

 ある分野に特化して世界中で展開するグローバル・カテゴリー・リーダーが国際市場を独占するケースが一般化し、スタートアップにとって、グローバル化こそが早期に取り組むべき重要な経営課題になりました。

 2000年以前のスタートアップのビジネスは、インターネットのような新しい産業分野に閉じた、しかも国ごとに市場が成立しうるビジネスだったといえます。Yahoo! のようなディレクトリー・サービスや、アマゾンのようなEC、eBayのようなオークションサービスも、国や地域ごとに異なるサービスが立ち上がり、それぞれがそれなりの規模に育ってIPOしました。

「勝者総取り」の競争構造になった2000年以降、多くの資金を調達し、グローバル市場を速やかに取ることが極めて重要になりました。それを支えるため、国際的な協調投資が強く求められるようになったことは、当然の成り行きだったのです。

2.規制緩和

 2つ目は、規制緩和です。

 ヨーロッパでスポティファイのようなライツ・マネジメント関連のビジネスが立ち上がり、同じくヨーロッパや南米でフィンテックが立ち上がったことは、その地域における規制緩和と無関係ではありません。

 欧州には知的財産権に関する、先進的な法規制が整備されていました。リーマン・ショック以降、金融規制が強化された米国に対し、欧州では緩和が進みました。南米では、規制を変更して新しい産業の参入を促し、これがフィンテックの発展につながりました。

3.リーダーたちによるネットワークの形成

 そして3つ目として、カウフマン・フェローズやエンデバーのような組織が、国際的な投資家や起業家の連携を促したことも大きいと思います。

 イノベーションを牽引する業界リーダー候補が相互に連携する人的ネットワークを人工的に作ることに、カウフマン・フェローズは貢献しました。リーダー候補に必要な共通知識、ベストプラクティスの情報を与え、成功事例が積み上がりました。

 加えて、グローバル展開に不可欠なダイバーシティを確保したことで、より大きな成果を生んでいます。カウフマン・フェローズがなければ、筆者自身も(共同創業者であり、カウフマン・フェローズ名誉会長である)フィル・ウィックハムのような米国で実績がある業界の重鎮とともにSozoベンチャーズのような新しいモデルは作れなかったでしょう。

 以下に、3つの要因をまとめておきます。

変革が起きた3つの要因
①「勝者総取り」の競争構造に対応したグローバル化の要請
②新しい産業を生む規制緩和
③人工的なグローバルネットワーク形成

 以上の3点が重なり、スポティファイのような少数のロールモデルが各地域に発生しました。それが周りに影響を与え、雪崩を打つようにエコシステムに変化が起き、産業構造をまったく新しいものに変えていきました。