「モノがぼやけて見える」「視力が下がってきた」「目がかすむ」――気になる目の症状があっても、「まあ大丈夫だろう」と、そのまま放置していないでしょうか?
目の疾患には、自覚症状がないまま進行して、気づいたときには失明寸前になるものがいくつもあります。そこで参考にしたいのが、『ハーバード × スタンフォードの眼科医が教える 放っておくと怖い目の症状25』(ダイヤモンド社)。本書の著者はハーバード大学とスタンフォード大学に計11年在籍し、世界的権威の2大科学誌『ネイチャー』『サイエンス』に論文が掲載されたスーパードクターで、近ごろ始めたYouTubeでは視聴回数100万突破の動画があるなど注目を集めています。本書の噂を聞きつけて全国各地から来院する患者が後を立たない眼科クリニックの院長が、患者さんによく聞かれる質問をベースに、Q&A形式でわかりやすく放っておくと怖い眼の症状を解説します。
※本稿は、『ハーバード × スタンフォードの眼科医が教える 放っておくと怖い目の症状25』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。
【困った症状】中心部分が暗く感じる
A 「目の中心部分が暗く見える」と訴える人に、圧倒的に多いのが「中心性漿液性網脈絡膜症」(ちゅうしんせいしょうえきせいみゃくらくもうまくしょう)という病気です。漢字が多くてお経みたいな名前でしょう? 私たちは英語名を略して「ICSC」と呼んでいます。
Q なぜ、その難しい名前の病気になってしまうのでしょう?
A 網膜を外側から包んでいる血管が多い膜を「脈絡膜」といいます。網膜は、網膜内の血管以外にも、脈絡膜の血管からも酸素や栄養を得ています。それと同時に不要になった老廃物を、脈絡膜の血管から排出して機能を健全にキープしているんです。
網膜は10層もの薄い膜が重なって構成されていますが、網膜の一番外側のバリア機能が低下すると、外側に接する脈絡膜の血管から染み出した水分が、網膜側に漏れ出てきます。この漏れ出した水分が「水ぶくれ」をつくると、部分的な網膜剥離が起きてしまいます。
なぜかこの病気は網膜の中心部で、モノを見るための視細胞が集まっている「黄斑部」(おうはんぶ)の近くで起こりやすく、ここで網膜剥離が起こると「中心部分が暗く見える」という症状が現れるのです。
目の奥の網膜に「水ぶくれ」ができて
暗く見えたら
Q なんだか怖いですね……。この病気は、どうやって治療するのですか。
A 水ぶくれができているのが、黄斑部から離れていれば、レーザーで水の出口をふさぐことができます。しかし、水ぶくれが黄斑部に近いと、レーザーを打つことができませんから、自然に治るのを待つしかありません。
Q えっ、自然に治る可能性があるんですか。
A この病気は、治療をしなくても3~6ヵ月もすると、自然に治ることがあります。その自然治癒を助けるために脈絡膜の血液循環を促進する内服薬を飲んでもらうこともあります。ただし、この場合、経過が長引いたり、症状をくり返したりすることもあります。
同じ病気で、
中心部が黄色く見えることも
A この病気は、水ぶくれの位置によって「中心部分が暗く見える」以外の症状が出ることがあります。たとえば「中心部分がなんとなく青く見える(黄色く見える)」「モノが小さく見える(ゆがんで見える)」といった症状です。
こうした症状を自覚したら、先ほどお話した「中心性漿液性網脈絡膜症」(ICSC)の可能性があります。
Q ほかに「中心部が暗く感じる」病気はありますか。
A ほとんどの場合はICSCですが、網膜の中心にあり視力のほとんどを担う「黄斑部」に異常が起きる「加齢黄斑変性」という病気の可能性もあります。この場合、中心部が暗く見える以外にも「モノがゆがむ」「見えにくい」という症状をともなうことが多いです。
糖尿病の人で、黄斑部にむくみが出て「黄斑浮腫」になると「視界の中心部が暗く感じる」という人がいます。糖尿病の患者さん全員に起こるわけではありませんが、確率として低いとはいえません。
●中心部分が「暗く見える」「青く見える」「黄色く見える」「モノが小さく見える」を放っておくと、症状が長引いたりくり返したりする。
*自然に症状がよくなるケースがあるものの、「加齢黄斑変性」や「糖尿病性網膜症」のように治療が難しく、予防に努めるしかない病気の場合もあるので、様子見をする前にまずは眼科医を受診しましょう。
※本稿は、『ハーバード × スタンフォードの眼科医が教える 放っておくと怖い目の症状25』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。