「大阪」沈む経済 試練の財界#19Photo:PIXTA

LPG(液化石油ガス)業界最大手の岩谷産業は、牧野明次会長が10年以上にわたり関西経済連合会副会長を務めるなど、関西財界で強い存在感を示している。20回超にわたり公開予定の特集『「大阪」沈む経済 試練の財界』の#19では、トヨタ自動車や関西電力などの超大手企業に食い込む岩谷産業の「コバンザメ処世術」を解き明かす。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

社歴、売上高で劣っても
関経連副会長に上り詰めた牧野氏

 脱炭素社会の実現に向けた切り札として、注目されている次世代エネルギーが水素である。その水素銘柄の筆頭格は、岩谷産業だ。菅義偉首相(当時)が2020年10月にカーボンニュートラルの推進を宣言して「水素バブル」が沸き上がり、岩谷産業の株価は4000円台から一時は7000円台まで急騰した。

 1930年に創業した岩谷産業は酸素、カーバイド、溶接材料を扱う「岩谷直治商店」をルーツとする。「主婦をすすや煙から解放したい」とプロパンガスの普及にまい進し、「台所革命」を起こした創業者の岩谷直治氏は“プロパンの父”と呼ばれる。

 そのプロパンの父が「究極のエネルギー」と着目したのが、水素だった。41年ごろ、硬化油脂製造工場で捨てられていた余剰水素を「もったいない」と引き取って販売を始めた。その後直治氏は「いずれ水素の時代が来る」と、社内の反対を押し切って本格的な水素サプライチェーンの構築に突き進んだ。

 創業者のDNAを受け継ぐのが、岩谷産業の牧野明次代表取締役会長兼CEO(最高経営責任者)だ。水素の需要開拓にしつこくこだわって国内の水素シェアトップの座を維持し、“ミスター水素”の異名をとる。

 その牧野氏は2009年5月から関西経済連合会の副会長に就任している。現在の関経連副会長の中で最古参となり、「水素バブル」も追い風に関西財界で存在感を強めている。

 しかし歴史や伝統、売り上げ規模といった企業の格を重んじて副会長を選出する傾向がある関経連にあって、牧野氏はやや異質な存在ともいえる。

 社歴は、1878年創業の川崎重工業ら超老舗が居並ぶ関経連副会長の企業の中では、“若い”部類に入る。売上高でも3兆円規模の住友電気工業や関西電力、クボタなどに比べれば、岩谷産業は6903億円(22年3月期)と劣る。

 実は、関経連の80年近い歴史の中で、岩谷産業が副会長ポストを獲得したのは、現在の牧野氏をおいてほかにはいない。果たして、どのようにして牧野氏は、財界の重鎮にまで上り詰めたのだろうか。

 次ページでは、岩谷産業が、自身よりはるかに格上のトヨタ自動車や関電といった超大物企業に食い込んで、おこぼれにあずかる「コバンザメ処世術」について解き明かす。また、牧野氏の関経連幹部への抜てきに関与した、牧野氏とじっこんの仲といえる、ある関西財界の超大物の実名も明らかにする。